第23編 『リーダーは辛いよ!?』 シーン03

作者:健速

シーン03 悩めるリーダー達



 一同は初めて会う訳ではないので、軽い挨拶が済むと早速本題に入った。最初は六本木博士が、今回の経緯について改めて解説した。魔法を取り締まる上で、事前に魔法を体験しておきたい。この辺りまでは孝太郎(こうたろう)から聞いた内容と同じだった。だが、今回の話はその先があった。

「ちなみにこれは政府には内密に行っている。ワシも含め、全員が有給休暇じゃ」
「皆さん休日出勤なんですか!?」
「どうしてそんな事を!?」

 この時の六本木博士の言葉に、晴海(はるみ)静香(しずか)は目を見張った。どうしてそんな事をする必要があるのか、二人には想像もつかなかった。

「残念ながら政府も一枚岩ではないのでのう。不用意に上へ魔法の情報を流したら、それが妙な方向に拡散しかねんのじゃ」
「かといって僕達も死にたくはないですからね。僕達現場レベルでは魔法の対処法を知っておかなければまずいんです」

 困惑する二人に六本木博士とコタローが苦笑気味に事情を伝える。フォルトーゼの技術に限っても、政府内で意見が分かれている。だから魔法でも同じ事が起こりかねない。理想は完全に情報を得ない事だが、そうすると現場の兵士達が―――サンレンジャーや黒服達が―――大きな危険に晒される。それを避ける為の処置が有給休暇。休暇中にオカルト情報を手に入れたとしても報告する必要はない。神社で呪いの藁人形を見ましたと報告する必要がないのと同じだった。

「公にはワシらは今日、この場所を借りて懇親会を開く事になっておる」
「昇進して偉くなったのに、色々と難しいのね、正義の味方って」
「皆さん昇進した事で、上の方の都合と、現場レベルの都合の板挟みになってしまったんですね。お察しします」

 そしてこの有給休暇こそが、サンレンジャーの立場と意図を明確にしてくれていた。昇進して多くの責任と義務を負ったサンレンジャーだが、彼らは多くの枠の中で最大限、平和な世界とそこへ住む人々を守ろうと頑張っているのだ。

「こうしたワシらの事情を踏まえた上で、お二人にご協力頂きたいと思っております。いかがでしょうかな、晴海さん、静香さん」

 またこういう際どい状況であっても、彼らは謙虚な姿勢を崩さない。晴海と静香にきちんと事情を説明し、真正面から頭を下げていた。そんな彼らに晴海と静香はノーとは言えなかった。二人は顔を見合わせると頷き合い、笑顔を作った。

「分かりました、お手伝いさせて下さい」
「私達に出来る事だったら何でもするわ! いいわよね、おじさま?」
『うむ、その志の高さ気に入った。喜んで協力させて貰おう』
「きゃあぁんっ、なんなのこの可愛いトカゲさんはっ!?」
『ぬ、な、なんだっ!?』

 晴海と静香は改めて思った。サンレンジャーはやはり正義のヒーローなのだ。それは同時に晴海や静香、孝太郎達の大切な仲間であるとも言えるだろう。だから二人には彼らに力を貸す事にためらいはない。苦手だの何だの言わないで、出来る限りの事を伝え、少しでも彼らの力になれるように頑張りたいと思っていた。



 こうして正式に晴海と静香から協力が得られる事となったサンレンジャーは、早速訓練を開始した。だが最初に行われたのは厳密には訓練ではなく、ホワイトボードの前に座っての授業からだった。

「私が知る限り、魔法には二系統が存在しています。一つは私が使っている古代語魔法、もう一つはフォルサリア、ゆりかさん達が使っている現代語魔法です」

 軽い軋み音を立てながら、ホワイトボードに晴海の綺麗な文字が書き込まれていく。書くペースは早く、それでいてバランスが良く、何より読みやすい。字形に女性らしいたおやかさまで含んだ、晴海らしい文字だった。

「古代語魔法はその場その場で即興的に魔法を発動させていきますが、現代語魔法は定型文を組み合わせる事でその手順を簡略化、高速化しています。ですがその分だけ、定型文になっていない部分では微調整が難しい事や、発動に多くの道具が必要になったりしています」
「教官、道具とは具体的にはどのようなものでしょうか?」

 ケンイチが手を上げて質問する。道具が特徴的なものなら、取り締まりの時にやり易いと思っての事だった。この質問に対して、晴海の答えは何故か数秒遅れた。

「………そ、そっか、教官って私でしたね。いけないいけない」

 その数秒でケンイチが自分に話しかけていたのだと悟り、晴海は顔を赤らめた。だが照れている場合ではない。晴海は気を取り直して話を再開した。

「ゆりかさんと()()さんを思い出して下さい。あの二人が持っている杖と着ている服に魔法の実行式の一部が込められています。ですからそれらを使わずに魔法を使おうとすると威力や発動速度がかなり落ちます」
「古代語魔法並みに、という事ですか?」
「いえ、もう少し下がります。現代語魔法においては、杖と衣装はかなり大きな意味を持ちます」
「そうなってくるとテロなんかで怖いのはむしろ古代語魔法の方か………」

 晴海とケンイチの話を聞いて、ハヤトは顎に手を当てて考え込む。扱い難いが道具に依存しない古代語魔法は、事前に発見するのが難しい。だから潜入作戦やテロ攻撃で怖いのは古代語魔法の方、という事になるだろう。

「ですが幸か不幸か、現在では古代語魔法は私しか使っていません。私は少し例外のケースの魔法使いなので。ですから皆さんの相手は主に現代語魔法を使う事になりますが、念の為に古代語魔法もありうると記憶に留めておいて下さい」
「そいつは朗報だ。だが現代語魔法も杖無し、衣装無しでも幾らかは使える訳だから、どちらにしろ対応は同じになりそうだな」

 古代語魔法はその複雑さゆえに才能への依存度が高かったので、利用出来る人間が少なかった。それをフォルサリアでより使い易く一般化したのが現代語魔法だ。彼らは別の世界へ飛ばされてそこで生き延びる為に、そうした変更を必要とした。魔法使いの数をいかに増やすか、そこが生き残りの要だったのだ。結果としてフォルサリアでは古代語魔法の使い手は姿を消し、サンレンジャーの敵として現れる可能性は(ほとん)どなくなっていた。フォルサリアを探し回ればごく少数の使い手が見付かるかもしれないが、彼らが古代語魔法を売りたいと考えているとは限らないし、売るにしてもやはりその複雑さが障害となる。取り引きの材料としては、より一般化された現代語魔法が相応しいだろう。

「ではここからは魔法の実行手順を、実演を交えて解説していきたいと思います」

 晴海はこれまでと同様に、魔法の実行手順を解説していった。魔法は呪文を詠唱しながら腕と手を動かして掌印を結び、体内にある魔力を目的に合わせて組み替えて現実を改変する。魔法の発動には時間が必要で、強力なものほどその時間は長くなる。精神集中が必要になるので、動きながらでは強力な魔法は使い難い。そうした基本的な情報を伝え終わると、晴海は実際に魔法を使って見せた。

『集い来たれ風の精霊、腕に宿り塊となりて、我が敵を打ち滅ぼせ!』

 晴海が掌印を結びながら朗々と呪文を唱えると、彼女の右腕に青い光が宿り、それが空気の渦へと変化する。召喚された風の精霊が、彼女の意志に応えて攻撃の形に変化したのだ。それは圧縮された大気のハンマーだった。

『轟けっ! 大気の大槌っ!』
 ゴシャアアッ

 晴海が勢いよくその手を振り下ろすと、数メートル先にある訓練用の標的―――強度と大きさを人間に合わせた人形―――が幾つかバラバラになって吹き飛ぶ。そして訓練施設にはその一撃の名残りの風が吹き荒れた。

「凄い威力だな、ハヤト………手榴弾何個分かの威力がありそうだ」
「だが反面、発動までに何秒か足を止めている。それなら移動しながらランチャーでも撃った方が良いだろう」

 サンレンジャーは見た事を頭に入れて、すぐに意見を交わす。彼らや部下、街の人々のの命にかかわる事なので、彼らは真剣だった。

「仰る通りです。魔法は個々の魔法だけを見ていくと、通常の兵器に劣ります。ゆりかさんの様な天才魔法使いでもです。しかし魔法の真の強みはそこにはありません」

 晴海も真剣だった。自分の伝え方が悪ければ、もしもの時に誰かが死ぬ。魔法の流出などなかなか無い状況だろうが、それでも気は抜けなかった。

『集え、水の精霊。舞え、風の精霊。二柱の力を糧として、出でよ雷の精霊! 天空を支配せし雷神の怒りもて、我が敵を断罪せよ!』
 バシャァァァァァン

 続いて晴海が使った魔法は雷撃だった。その白く輝く一撃を浴びた標的は、大電流に耐えかね、内側から破裂するようにして爆散した。

「雷撃か………これも大した威力ですね」

 ケンイチは額に滲む冷や汗を拭った。これがテロに使われたら、そう思うと背筋が凍る思いだった。晴海はそんなケンイチに頷いた。

「はい。今見て頂いたように、魔法の真の強みは状況に応じて使い分けが可能である事です。そして武器らしいものを何も持っていなくても突然攻撃に入れる事」
「そういう事ですか………同じ威力で別の攻撃。武器は持っていても杖まで………いや、杖の形状に拘るのは愚かか。持っていない場合もありますもんね?」
「はい。杖ではなく、もっと別のものに実行式を埋め込んでいる場合もあります」
「厄介だな、この自由度の高さ。つまり奇襲向きである訳だから、足を止めなくてはいけないという弱点を補って余りある」

 ハヤトが唸る。最悪の場合に自分達が相手にする事になる敵の姿がイメージ出来るようになり、その危険性に戦慄していた。ハヤトは特に、サンレンジャーの作戦担当なので、誰よりもその怖さを理解していた。

「逆に言うと、皆さんは魔法使いの最初の一撃をいかに防ぐか、という事になって来るのではないでしょうか」
「奇襲をさせない、か。厄介な課題だな………ハヤト、何か考えはないか?」
「装置で呪文の詠唱を検知するのが良いかもしれないな。古代語魔法だと必須だろうし、杖と衣装無しで侵入して来た現代語魔法の使い手は威力を上げる為に長い呪文の詠唱が要る筈だ」
「良い方法だと思います。後程魔法言語のデータをお届けします」
「ワシの自宅に、休暇の時に届くと助かるのじゃが」
「はい、そのように手配するように言っておきます」

 だが嘆くばかりではない。晴海のおかげで魔法というものを事前に知る事が出来たので、僅かながら対策が立てられるようになった。また遭遇した時の心構えも出来る。これは間違いなく大きな進歩だろう。

「それと例外が笠置さんのようなタイプです」

 標準的な魔法の事を伝え終えたので、続いて晴海は例外についての解説に移った。それを聞いて静香が一同の前に歩み出た。

「やっと私とおじさまの出番ね」
『どこまでやる?』
「戦う時にいつもやるぐらいまで。その辺が知りたいんでしょうし」
『そうだな、心得た』

 ここで静香の身体が、呪文の詠唱もなしに炎に包まれる。静香は呪文の詠唱をしていないし、掌印も結んでいない。だがその身体を包む炎は十分な距離があるのに熱さが伝わってくるほどのものだった。

「これは………どういう魔法なんですか?」

 今度はコタローが手を上げて質問する。コタローは技術担当なので、先程の晴海の説明から外れている静香の姿が気になっていた。

笠置(かさぎ)さんの魔法は身体の中で常に働いています。外に出さない分だけ力が強く、また常に働いているので詠唱や掌印を必要としません」
「こういう事ね」

 静香は軽く微笑んでから、訓練施設の障害物として設置してある金属壁に近付いた。そして無造作に壁に拳を打ち込む。

 ビキィィッ

 次の瞬間、金属壁に拳大の穴が空いた。しかもあまりの拳の速さと威力に、穴は命中した部分だけが綺麗に打ち抜かれ、拳の形をした金属板が殴られた反対側に向かって飛んでいった。穴の縁を見ても、板が歪んだ様子はない。それは金属板が変形してショックを和らげる余裕もない程の一撃だった、という意味だった。

「………ダイサク君、女の子が素手で鉄板を貫いたわ!」
「でも、メグちゃんはあんな事は出来なくて良いからね」
「あなたが浮気をした時には出来ると思うわ」
「それは出来ないってコトだよ」
「うん、そうね♪」
「メグミ姉ちゃんもダイサク兄ちゃんも、いちゃいちゃしてないで話聞かないと」
「これは人間の魔法使いよりも、生まれつき魔力を帯びて生まれて来る生物に多い魔法の使い方です」
「魔物とかってコトですか?」

 ゲームでも良く遊ぶコタローなので、魔法には他の面々よりも理解があった。口から火を吐いたりする怪物は、ゲームでも定番の敵だった。

「そうですね、そう考えて良いと思います。どちらかといえば技術として習得した技ではなく、本能的な力という事になります」
『………本能には本能なりの技があるのだがな』
「おじさま、話がややこしくなるから」
『すまん』
「このタイプの欠点は常に力を発動させているせいで目立つ事、また魔力を組み替えて使う自由があまりない事でしょうか」

 目立つというのは魔物の姿形だからという訳ではなく、今の静香のように魔力が炎になって身体の外へ漏れ出しているような事の方を指している。エンジンから熱が出ているのと同じで、魔力が強ければ強い程、このように残滓が漏れ出すのは避けられないのだ。また本能的に働かせている力なので、使い方が画一的になりがちだ。静香の場合、攻防や移動速度、火炎を吐くくらいにしか使えない。

「確かにこっちの子は熱センサーなりに引っ掛かりそうだな。汎用性と隠密性を犠牲にしたパワー優先のタイプって事か。ダイサクに近いな」
「拠点防衛や制圧任務で大きな力を発揮するだろうな。ふむ、こっちがダイサクなら、本来の魔法使いはハヤト、お前に近いな」

 サンレンジャー達は晴海達の解説を聞き、実演を見ながら、彼らなりに魔法に対する理解を深めていく。驚くような事ばかりだが、今驚いておく事に意味がある。そうすれば実際に遭遇した際に冷静に行動できる。多くの命を守る事が出来る。一見とても地味な行動に見えるし、無駄になるかもしれないのだが、彼らは懸命に取り組んでいる。その頑張りは、晴海と静香がヒーローとはこういうものかと感心してしまう程だった。



   ◆◆◆次回更新は10月26日(金)予定です◆◆◆

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