第25編 『緊急取材!! 青騎士伝説の真実に迫る!?』 シーン01

作者:健速

シーン01 今日も取材中



 眼前に運ばれてきたモノを見て、ナルファは目を丸くした。そんなナルファの姿を見て軽く微笑むと、琴理(ことり)はそれが何なのかの説明を始めた。

「これはコウ兄さんが愛してやまないハンバーガーという食べ物です」
「パンで焼いたひき肉や野菜を挟んだ食べ物………似たものはフォルトーゼにもありますけど、ここまで巨大なものは初めて見ました!」
「あはは、地球でもここまで大きいのは珍しいの。ただ、コウ兄さんがこのサイズが好きだから、ナルちゃんは見たいかなーって」
「もちろんです! ありがとう、コトリ!」

 ナルファが目を輝かせて見つめているのは、近隣では最大サイズを誇るハンバーガーだった。今二人がいるカフェの名物で、孝太郎(こうたろう)はこれが大好きだった。育ち盛りの孝太郎を一つで満足させてくれるハンバーガーはこれしかないのだ。もちろんナルファが一人で食べるには多過ぎるので、琴理と半分ずつ食べる事になるだろう。ナルファはそれをしばらく色んな方向から見つめていた。それが済むと、ナルファは早速カメラを取り出して巨大なハンバーガーの撮影を始めた。

「これはハンバーガーという食べ物です。パンでお肉や野菜を挟んだ料理で、レイオス様が大好きなんだそうです。パッと見ただけでは分かりにくいですが―――ああ、隣にこうやって私の手を置くと大きさが分かるかな? ともかくかなり巨大です。本来はもっと小さいサイズが標準だそうですが、レイオス様はこのサイズを好んで頼むのだとか。最初は驚きましたが、レイオス様はあれだけ激しく戦う訳ですから、むしろ納得のサイズじゃないでしょうか」

 既に多くの動画を撮影しているので、ナルファのレポートは滑らかで分かり易い。そしてフォルトーゼ人が気になるポイントを適切に押さえている。撮影の様子を眺めている琴理は、また大人気になるんだろうなと思っていた。

「肝心の味の方ですが………大きなふわふわのパンに、ラジカの実のソースに近いものがかかった挽き肉を丸く焼いたものが挟まっていて………どことなく収穫祭の料理を思い出す味です。私達フォルトーゼの人間にも馴染み易い味だと思います」

 そして琴理はナルファからカメラを受け取り、ナルファがおっかなびっくり食べる姿を撮影する。最近はこうやって琴理がナルファの助手のような事をするようになっていた。おかげで徐々にカメラ撮影の技量が上がってきた琴理だった。

「ナルファさん!」

 それから時間が流れ、ひとしきり撮影が済んだ頃。カフェの入り口の方から一人の少女が近付いてきた。彼女は何処かの高校の制服に身を包んでいたが、左右非対称のツインテールとその色には独特の雰囲気があった。

「お久しぶりです、メノンワースさん。今日はお呼び立てしてしまってすみません」
「歓迎式典以来だからニ、三週間ぶりね。ナルファさんは地球の暮らしには慣れた?」
「大分慣れてきました。幸い、お友達にも恵まれましたから」
「初めまして、松平琴理です」
「メノンワース・ギランドルです。ナルファさんと一緒に地球へやってきた留学生の一人です」

 彼女―――メノンワースは、ナルファと共に地球へやって来た留学生だった。ただし配属先は別の高校で、今日は電車に乗って遠くからここまでやって来た。別の留学生の取材をしたいと考えたナルファが一番近くにいるメノンワースに連絡をしたところ、自分から出向くと言ってくれたのだった。

「それでナルファさん、どうなのレイオス様はっ!?」

 自己紹介が済むなり、メノンワースは身を乗り出すようにしてナルファにそう訊ねた。実はメノンワースがわざわざ出向くと言った理由はこれだった。レイオス―――孝太郎の様子を知り、出来れば会いたいと思っていたのだ。その気持ちは同じフォルトーゼ人のナルファには良く分かる。だから小さく微笑んで答えた。

「想像通りのお人柄で、しかも想像以上の英雄でした!」
「皇女様達との御関係は? あの映像の通りなの?」
「あれ以上です。あれでも抑え気味の映像を使っていますから」
「そうなんだっ!? うわぁ………いいなぁ、お会いしたいなぁ………」
「今ならまだ高校にいらっしゃると思いますよ」
「ホントに!? 行ってみたい!!」
「そう仰ると思っていました。これからご案内します」
「ねっ、ねっ、ナルファさん、私の格好おかしくないかな? ちゃんとしてる?」
「大丈夫ですよ、フォルトーゼ人として恥ずかしくない格好です。ふふふ………」

 メノンワースは心配そうに自分の身体と服を見回している。孝太郎はフォルトーゼ人にとって二重の意味での英雄だった。二千年前に伝説の皇女アライアを救い、そしてまた現代においてもフォルトーゼと皇家を守った。伝説と現実、双方における英雄であり、フォルトーゼの人間にとっては皇族に匹敵、あるいはそれ以上の重要人物だ。会うとなれば失礼があってはいけない。特に年頃の女の子は伝説の英雄に恥ずかしい姿を見せれば一生の恥となる。メノンワースは朝から準備をしてきたが、それでも気は抜けなかった。

 ―――コウ兄さんは本当に英雄になっちゃったんだなぁ………。

 琴理はメノンワースの様子を見て孝太郎が英雄になった事を実感していた。事実は既に聞かされていたし、戦いぶりも見ていたのだが、琴理の頭の中では『コウ兄さん』と『青騎士』が上手く繋がっていなかった。それをメノンワースの女の子らしい反応―――まるで大好きなアイドルにでも会いに行くかのような―――が上手く繋げてくれた。とはいえ英雄の何たるかは琴理にはイメージ出来なかったので、大好きなお兄さんがある日突然アイドルになっちゃった、くらいの認識だったのだが。

 ―――コータロー様の人気は凄いなぁ………やっぱりみんなコータロー様の事を知りたくて仕方がないんだろうなぁ………私もだけど………ただこの感じだと、もう少しコータロー様の特集をやっても大丈夫そうだな………。

 そしてナルファも似たような事を感じていた。実はナルファは今後作っていく動画の方針を決めかねていた。このまま皇家と孝太郎を推していくのか、それとももっと日本の暮らしの方に焦点を当てた方がいいのか、といったような事で悩んでいたのだ。

「よし、あれをやってみよう!」
「どうしたの、ナルちゃん?」
「いえ、なんでもありません。ちょっと考え事を」

 ナルファはメノンワースの反応を見て、まだ前者のままで良いらしいと結論した。そこでナルファはかねてより考えていたアイデアを実行に移す事に決めたのだった。



 その日のクランは放課後になると真っ直ぐに自身の宇宙戦艦『朧月(ろうげつ)』へ向かった。彼女がそこでする事は、大型の工作機械を使って小さな金属棒を削る事。そしてその様子を見守る目玉が六つ。二体の埴輪と、最近よく見かけるぬいぐるみっぽい姿の火竜帝アルゥナイアだった。

『やっぱり市販パーツとは加工精度が桁違いだホー!』
『道理でクランちゃんのラジコンだけ静かに走るホー』
『このような加工機を隠し持っていたとは………皇女殿下もお人が悪い』

 クランが削っているのはラジコン用のパーツだった。厳密に言うと、動力を伝達する為のシャフトだ。このシャフトの精度が高いという事は、モーターの生み出すエネルギーが無駄なくタイヤに伝わるという事になる。クランは今、趣味のラジコンパーツにあるまじき精度で棒を削っている。そうした高精度のパーツは、クランのラジコンが強い理由の一つだった。

「それについては何度も謝りましたわ! そろそろ許して下さいな!」
『実はもう怒ってないホ』
『ちょっとした友情の表現だホ』
『青騎士の真似をしてみたのだ』
「余計な真似はしなくてよろしい!」
『悪かった』
『もう言わないホー』
『おいら達はクランちゃんの味方だホー』
「まったくぅ………」

 クランはラジコンを作る時、特に悪意無く普段の物作りと同様に、ルール違反にならない範囲で自分でパーツを作り精度を上げた。だが他の面々は市販品を使っていた。埴輪達がそれに気付き、火竜帝と連名で抗議。その結果、埴輪達とアルゥナイアもクランの工作室を使って良い事になった。今は工作機械の使い方のレクチャーしている最中だった。

「………とまあ、基本的に人工知能任せで大丈夫なようにしておきましたわ」
『欲しいパーツのオリジナルを計測させて、ラジコンの組み立て説明書を読み込ませるだけでいいホ?』
「ええ。オリジナルから寸法を読み取り、組み立て説明書から使い方を推定、そこから必要な強度を持った素材を選び、適切に加工してくれますわ」
『これでおいらのサンダートルネードがグレードアップするホー!』
『儂のように、飾りの排気管を金属製に変えたい場合は?』
「同じように読み込ませた後、人工知能に金属にしたいと仰っていただければ、そのようになりますわ」
『ふむふむ』
「それともし排気管のデザインを変えたい等という場合は、追加でどう変えたいのかを書いた紙でも写真でも読み込ませれば、そのように作って下さいますわ」
『心得た! では行くぞ者共!』
『ラジャーだホー!』
『楽しみだホー!』

 ひとしきり説明を聞いた火竜帝と埴輪達はその目をキラキラと輝かせて工作機械に近付いていく。彼らはしばらく工作機械の周りを歩いていたが、やがて自分のラジコンを取り出して、どこをどう改造するかでああでもないこうでもないと悩み始めた。対するクランは特に何もせず、黙って三人の様子を見つめていた。それはアルゥナイア達に何か疑問があれば、すぐに答えてやる為だった。

 ―――ふふふ、子供のようですわね………。

 かつてのクランなら他人の面倒など見ようとはしなかっただろう。仮にやったとしても不機嫌そうにしていたかもしれない。だが今の彼女は上機嫌だった。それは彼女が心理面で成長したというだけでなく、ラジコンを通じて同じ趣味の仲間を見付けられたからだ。同じ趣味を持つ仲間に対する帰属意識が、彼女を笑顔にしてくれているのだった。

「クラン様ー!」

 ナルファが工作室にやってきたのは、ちょうどそんな時の事だった。

「あっ………」

 ガシャーン

 そしてクランの工具箱が床に落ちて中身が散乱したのも同じ時だった。



   ◆◆◆次回更新は2月8日(金)予定です◆◆◆

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