第25編 『緊急取材!! 青騎士伝説の真実に迫る!?』 シーン02

作者:健速

シーン02 クラン、取材を受ける



 メノンワースとのやりとりや、彼女を孝太郎(こうたろう)と会わせた時の反応などから、ナルファは次の動画を青騎士特集にする事に決めた。ただナルファは青騎士本人のインタビューなどはやったばかりだったので、切り口を変えたいと考えていた。そこでナルファが目を付けたのは、周囲の目から見た青騎士像、というものだった。

「………そういった次第で、コータロー様を陰で支え、共に伝説を駆け抜けた、クラリオーサ皇女殿下のお話をお聞き出来ればと思ったのです」

 ガコン

 ナルファは事情の説明を終えるのと同時に、クランの工具箱のフタを閉じる。これで散乱した工具の片付けも終わりだ。ナルファは照れ臭そうに、申し訳なさそうに笑った。

「正しい見識ですわね」

 当初は工具箱の事もあってナルファの登場を面倒だと考えていたクランだったが、彼女から話を聞くうちに笑顔を覗かせるようになっていた。クランは青騎士の相棒を自負しているが、青騎士という名前が強過ぎて、世間的には伝説におけるクランの評価はそれほど高くはない。しかしナルファはきちんとクランを青騎士の相棒として評価しているような話しぶりであったので、クランの自尊心を満足させてくれていた。おかげで彼女が工具箱を落とした事はこの時点で忘れていた。もっともナルファが来る前から機嫌が良かったという事情も大きかったのだが。

「とはいえ、わたくしから言える事は全て科学アカデミーで話しましてよ?」
「それはあくまで歴史的な事実の確認に限られます。私が殿下にお尋ねしたいのは、青騎士閣下と殿下はどのようなご関係であったのかという事、そして殿下から見た青騎士閣下とは何者なのか、という事なのです」
「しかしそうなると、大分個人的な話になりますし、カラマ達の指導もしなければなりませんし………」

 だが機嫌はともかく、多少の問題はあった。話はクランの個人的な部分にまで踏み込む可能性が高く、中には言いたくない事も多かった。また今は埴輪達に機械の使い方を教えている最中で、取材だからとクランが抜けてしまうと埴輪達が困ってしまう。簡単に首を縦に振ってしまう訳にはいかなかった。

「公開前に皇女殿下に拝見していただいて、問題がある場合は修正しますから!」

 ナルファもクランに個人的な話を要求している事は良く分かっている。幸いナルファは報道記者ではないので、無理に真実を追及しようとは思っていない。取材する側、される側、映像を観る側の全てが笑顔でいられる範囲の話で構わなかった。

『この部屋で取材を受ければ良かろう。狭くはないし、(わし)らに疑問があれば、すぐに皇女殿下に訊ける』
『クランちゃん、クランちゃんがおいら達に向けている笑顔をナルちゃんにも分けてあげて欲しいホ』
『ナルちゃんならきっと大丈夫だホ! 大きいブラザーやおいら達の秘密はちゃんと守ってくれているホ!』

 そして懸命なナルファをアルゥナイアと埴輪達が後押しする。彼らはその方がクランの為だと思っていた。実はこの三人も、クランが人付き合いが苦手なのを密かに心配していたのだった。

「うーん………分かりましたわ。話せる範囲までで良いのでしたら」
「構いません構いません! 是非お願い致します、クラリオーサ皇女殿下!」

 あれこれ悩んだものの、クランは最終的にナルファの取材を受ける事に決めた。クランの方も多少気にしているのだ。自分は人付き合いを避ける欠点があるという事を。だがクランは皇帝になろうと思っているので、この欠点は改善する必要がある。そう思えばこその決断だった。



 ナルファが知りたいと思っているのは、クランと孝太郎の関係、そしてクランの目から見た青騎士としての姿だった。だから自然と話は、その始まりからスタートした。

「最初はクラン様とコータロー様が出逢った経緯(いきさつ)をお聞かせ頂きたいと思っています」
「いっ、経緯ぅっ!?」

 しかしこれがいきなりクランにとって痛い部分だった。事実は明らかで、クランはティアの儀式を邪魔する為に地球へやってきて、孝太郎と出逢った。そしてその過程で孝太郎を殺そうとした。だがそれをそのまま話す訳にもいかない。早々にピンチに陥ったクランだった。

「あとコータロー様の第一印象なんかもお聞かせ願えたら………」
「だっ、第一印象っ!?」

 ピンチは更に続く。クランが孝太郎と出逢った時の第一印象は原始人。事実をそのまま口にしてしまえば、明らかに大問題になる。特に今は孝太郎に対してその真逆の印象を抱いているので、クランとしてはこの原始人という強い言葉が目立ってしまうのは避けたかった。

「それでは撮影を始めさせて頂きます。改めまして、よろしくお願い致します」

 ナルファは無邪気に笑いながら、カメラを構えている。自分の行為がクランを追い詰めているとは思いもしない。それが少し恨めしいクランだった。

「それではまず、青騎士閣下との出逢いからお聞かせ下さい」
「え、ええっとぉっ」

 クランは冷や汗を流しながら、必死で頭を働かせていた。事実をそのまま話す訳にはいかない。だが嘘をつくのも良くない。そうなると、なるべくソフトな言葉に置き換えて伝えるのが良いのではないかという結論に落ち着いた。

「えと、出逢った経緯ですけれど………その、もともとはティアミリスさんに用事があったんですの。その時に、既にティアミリスさんのお友達であったベルトリオンと初めて会いましたの」

 嘘ではない。クランは確かにティアに用事があった。ただ、その用事はティアの儀式の邪魔や暗殺だったのだが。もちろんこれは絶対に言えなかった。

「なるほど、ティア様がお二人を取り持たれた形なのですね」
「ええと、まぁ………結果としては、そのような感じですわね」

 クランはここで軽く胸を撫で下ろす。第一関門突破。まだ気は抜けないが、危険な障害を一つ越えたのは確かだった。

「初めて会った時の青騎士閣下は、どのような感じだったのですか?」
「そ、それは………」

 だがすぐに第二関門が襲ってくる。このインタビューは地雷原を歩くようなもの。言ってはいけない表現、話してはいけないエピソード―――そんな埋まっている地雷は山のように多い。それを一つずつ撤去しながら、地雷原を無事に通り抜けねばならない。一瞬でも気を抜けばアウト。クランは必死だった。

「………そうですわね、考え方が合わないというか………古臭い考え方をする男だと思いましたわ」

 クランが原始人という言葉を、非常に遠回りにソフトに表現しようとして辿り着いたのがこの答えだった。クランはこれを口にした後も表現を間違わなかったか確認を続ける。地雷原はまだ続くのだ。

「確かに今という時代では、騎士道は古い考え方かもしれませんね。それと考え方が合わないというのは、当初は反目したという事ですか?」
「反目………程度はともかく、確かにその傾向はありましたわ。わたくしもベルトリオンも、まだ考え方が子供から抜け切れていない時期でしたし」
「注目のポイントである、例の演劇の直前ですよね?」
「ええ………二人で馬鹿な事を沢山しましたわ」

 直接言葉にするとショッキング過ぎる内容だが、孝太郎とクランが馬鹿な事をしていたのは間違いない。実際、今の二人の関係からすると当時の事は馬鹿としか言いようがないクランだった。

「フォルトーゼの者なら誰もがとても気になる事だと思うのですが、青騎士閣下が青騎士閣下らしくなられる前は、どのような少年だったのでしょう?」
「物の道理を重んじる事と、融通が利かないのは今と同じ………しかし今よりもずっと無鉄砲で、感情的だったと思いますわ」
「分かる気がします。軍を率いるようになれば、感情を抑え、思慮深く行動する必要が出てくる筈ですから。しかしそれはクラン様も同じような経験をなさったのでは?」
「そうですわね。わたくしも当時は無思慮で、視野が狭くて………過去の世界へ飛ばされてようやく、自分の至らなさに気付きましたの」

 クランは表現を工夫しながら、ナルファの質問に答えていく。嘘はつきたくないが、強い言葉は勘違いのもとになる。クランは嘘をつかずに表現を和らげる事に必死だった。

『話し中申し訳ないのだが、焼き入れという工程の意味を教えて欲しい』

 だからアルゥナイアが金属棒を片手に質問しにやって来た時、僅かにクランの眉毛が吊り上がった。

 ―――わたくしがこんなに苦労しているというのに、アルゥナイアさんったら楽しそうに………。

 アルゥナイアの目はキラキラと輝いている。それは手にしている金属棒の輝きよりずっと強かった。

『ホー、ファルコンのブレイブウィングがもう一つ出来たホー!』
『ダブルウィング形態にするホ!?』
『当然だホ!』
『それならおいらはプラズマホイールを作るホ!!』

 もちろん目がキラキラと輝いているのは埴輪達も同じだ。工作機械と自身のラジコンの間を行ったり来たりしながら、埴輪達はラジコンのグレードアップに夢中。クランの事など眼中にないようだった。

『どうした、クラリオーサ皇女?』
「え、あ、ああ、焼き入れでしたわね。それは金属の熱処理の方法ですの。金属は熱してから冷やす事で硬くする事が出来ますの。反面、幾らか弾力を失いますから、焼き入れをするかどうかは用途に合わせて選択しますの」
『では飾りの排気管には要らないという事だな?』
「そういう事ですわ」
『良く分かった、ありがとうクラリオーサ皇女』

 クランが説明してやると、アルゥナイアは金属棒を片手に工作機械の方へ戻っていく。そしてそこで埴輪達とああでもないこうでもないと話を始める。三人とも、クランには興味が無い様子だった。

 ―――どうしてくれよう………わたくしをのけものにしてあんな楽しそうに………。

 クランの胸にふつふつと怒りが沸いてくる。それは純粋な怒りというよりは、友好的な感情の裏返しが混じった、これまでは孝太郎にしか向けられた事が無かった種類の怒りだった。

「それでは質問に戻らせて頂きますね」
「え、ええ………」

 しかしクランの怒りにはやり場がなかった。すぐにナルファのインタビューが再開されてしまったので、それどころではなくなってしまったのだ。だからクランはもやもやとした気持ちを抱えたままナルファの質問に答え続けなければならなかった。だがクランのもやもやを解消したのもまたナルファだった。

「青騎士閣下は火竜帝(かりゅうてい)アルゥナイアとの最初の戦いの時に―――」

 それはしばらく時間が経って、質問が過去の世界の出来事に及んだ時の事だった。ナルファの口から自然とその名前が飛び出した。

『呼んだか?』

 するとやはり自然と返事をする者が一人。少し離れていたので話の筋などは分からず、単純に自分の名前に反応しただけだったのだが。

「えっ?」

 だがこの反応はナルファには予想外だった。意味が分からず、目を丸くして戸惑う。そして思わず声の主をじっと見つめた。

『んっ? 今儂を呼んだのではないのか?』

 改めて眺めてみると、ぬいぐるみのような姿でラジコンのパーツを手にしてはいるものの、多分爬虫類、赤い身体、背中には翼―――それはナルファにドラゴンという単語を思い起こさせた。そして青騎士、その同行者のクラン。名前に反応した事。そうした幾つかの要素がナルファの頭の中でひらめきの爆発を引き起こした。

「まさかっ、アルゥナイア様なのですかぁっ!?」

 目の前のぬいぐるみのような生き物は、火竜帝アルゥナイアである―――ナルファもそれが突飛な発想ではあると分かってはいたが、これが真実なら納得出来る謎もある。フォルトーゼの内戦において目撃されている赤い竜の行方は今も分かっていない。あれだけ大きいものが見つからないという謎の答えが目の前にあると考えると、あながち間違いではないような気がしていた。

『しまった!? 気付いていなかったのかっ!!』

 アルゥナイアはてっきりナルファは自分が火竜帝だと知っているものと思っていた。孝太郎の正体を知っているなら、自然とそうなっているだろうと考えていたのだ。だが皮肉にもそうではなかった。そしてこの時のアルゥナイアが狼狽する姿が、ナルファに確信させた。

「やっぱりアルゥナイア様なのですねぇっ!!」

 青騎士伝説の一翼を担う、万物の帝王、煉獄の覇者、火竜帝アルゥナイア。その実在を知ったナルファは歓喜に震え、カメラを片手にアルゥナイアに駆け寄っていく。

 ガコッ、ガンッ

「いたっ!?」

 ナルファは興奮して注意力が散漫になり、途中で椅子を蹴倒したり工作機械に足を引っかけて転倒したりしたのだが、彼女はそれぐらいではめげなかった。もう一つの伝説との遭遇はナルファにとって簡単な事ではないのだ。

「初めまして、アルゥナイア様! これまでのご無礼をお許し下さい!」
『あ、ああ………』
「早速なのですがっ、お話を聞かせて頂いたり、このカメラで撮影させて頂いたりしてもよろしいでしょうかぁっ!?」
『う、うむ………』

 笑顔全開で迫り来るナルファの圧力に押し負け、アルゥナイアは思わず頷いてしまう。どのような強敵も圧倒して退けてきた伝説の大帝も、尊敬百パーセントで迫る一人の少女の笑顔には敵わなかった。それは史上(まれ)にみる、火竜帝秒殺の瞬間であった。

「………た、たすかりましたわ………」

 これに安堵したのがクランだった。ナルファの興味はクランから剥がれ、アルゥナイアに移った。これで地雷原を歩くようなインタビューは終わる。仮に終わらないにしても、続きは今日ではない。十分に対策を立てる時間が得られるだろう。

「最初にお訊きしたいのはっ、ドラゴンとはどういう生き物なのかという事ですっ!」
『ドラゴンは………ドラゴンだとしか………』
「例えば、朝に目を覚まして最初にやる事はどういった事なのですかっ?」
『え、ええとだな、目覚ましを止める?』
「それはこちらにいらっしゃる時の場合ですよね? 故郷での朝はどのように―――」

 ナルファのマシンガンのようなインタビューがアルゥナイアを襲う。そんなアルゥナイアに向かって、クランは思わず両手を合わせた。

 ―――本当に助かりましたわ、アルゥナイアさん………。

 とても申し訳ないとは思うのだが、アルゥナイアにこのまましばらく頑張って貰いたいクランだった。



   ◆◆◆次回更新は2月15日(金)予定です◆◆◆

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