第9巻トリオ投票記念SS 美春とセリアとアイシアのお泊り会

作者:北山結莉

セリアが岩の家で暮らすようになり、美春やラティーファ達が里からシュトラール地方へ移動してから一週間が経過した日の夜。
 まだセリアが美春達と出会ってから日が浅いこともあり、お互いの親睦を深めるためにと、ここ最近は岩の家に暮らす女性陣がローテーションでセリアの部屋にお泊まりをするのがブームになっている今日この頃。
 今夜は美春とアイシアがセリアの部屋に泊まる番だった。三人で小一時間ほど和やかに談笑していると――、

「もう眠くなってきた……」

 アイシアがぺたんと腰を下ろしながら、「ふわあっ」と可愛らしく小さな欠伸をする。

「まだ寝ちゃ駄目よ。寝る前に髪のお手入れをしないと。私が櫛で梳かすから、ミハルは結んでもらってもいい?」

 セリアはそう言って、近くに置いてあった櫛を手に取りアイシアの傍へと移動する。そして、美春に呼びかけた。

「はい」

 美春はリボンを手に取り、アイシアへと近づいていく。

「それにしてもアイシアって本当に綺麗な髪をしているわよねえ。こんなに櫛の通りが良くて、癖がなくて、髪が長いのに少しも痛んでなくて」

 セリアはアイシアの髪に櫛を通しながら、その手触りを再確認してほれぼれと言う。

「いつもこの髪の状態をキープできているから、羨ましいですよね」

 美春はふふっと笑って同意した。

「本当、いつだって手入れが必要ないくらいだもの。っていうか、アイシアは精霊だから、本当に手入れが必要ないのかもしれないけど……」

 髪が長いと寝る時に髪が擦れて摩擦が増えたり、髪が絡まったりして痛みやすくなるとよく言われるが、精霊であるアイシアは霊体化して実体化する度に身体の汚れなどを綺麗にしてしまうことが可能だ。
 科学的に検証したわけではないが、いつ触ってもこれだけ髪がさらさらなことを踏まえると、アイシアならケアをせずとも髪の傷みと無縁な可能性はある。
 そうなると、今の手入れも不要なように思えるが――、

「でも、そこは見過ごせないといいますか、私達もアイちゃんの綺麗な髪をいじれて楽しいですし、やっぱりこれだけ髪が長いと寝る時に邪魔になっちゃうでしょうから」

 長い髪の女性が寝る時に髪を結ぶ利点は、髪の動きを抑えて摩擦や絡みを抑制することだけでなく、長い髪が顔にかかって邪魔にならないようにすることにもある。ただ、あんまりきつく縛るとそれはそれで髪が傷むので、ゆるく束ねるのがポイントだ。

「そうね。アイシアってその辺りのことには本当に無頓着だし。放っておいたら寝起きにボサボサになっているかも」

 そのボサボサさえも霊体化して実体化すればリセットされてしまうわけだが、セリアは髪がボサボサになったアイシアを想像したのか、くすくすとおかしそうに笑う。

「髪がボサボサになったアイちゃんはちょっと見てみたい気もしますね。そうなったらセットのし甲斐もあるでしょうし」

 美春もおかしそうに笑って言った。その一方で、アイシアは二人に髪をいじられるがまま、眠そうに目をこすっていて――、

「って、ほら、アイシア。あんまりうつらうつらしない。って、もう、肩紐もはだけちゃっているじゃない」

 セリアはアイシアの肩紐がはだけていることに気づくと、お姉さん然と言ってアイシアの肩紐を正してやった。見た目はセリアの方が年下に見えるが、実質的な関係は逆になることも多い二人である。

「ん……」

 と、アイシアは眠そうな声で返事をした。

「それと、寝ている間に寝惚けて霊体化して、リオのところへ行っちゃ駄目よ」

 寝惚けて全裸でリオのベッドに潜り込んだこともあるので、セリアはここぞとばかりに追加で注意を促す。

「なら、最初から春人も呼んで四人で寝る?」

 それなら問題はない――とでも言わんばかりに、アイシアは提案した。

「……だ、駄目に決まっているじゃない。未婚の男女がそう頻繁に閨を共にするなんて」

 セリアはリオがこの部屋にいる姿を想像したのか、ポッと顔を赤らめて一蹴する。美春もその光景を想像したのか、ほんのりと頬を紅潮させていた。

「でも、美春達が岩の家に戻ってくる前に、三人で並んで一緒に寝たことがあったよ?」

 アイシアはしれっとそんなことを言う。

「えっ!? そ、そうなんですか!?」

 美春は意図せぬ情報を耳にし、ギョッと目を見開く。

「……ちっ、違っ! 違うのよ! ア、アレはアイシアが霊体化したままリオと寝るから間違いは起こらないとかいう話になって、本当に霊体化したままリオの部屋で寝ているのかを確認するために! 間違いがないように監視する必要があったというか!」

 セリアは泡を食って弁明した。それはセリアが結婚式を抜け出して、岩の家で暮らすようになった初日の夜の出来事だった。
 やっぱり同じ部屋で寝泊まりし続けるのはまずいと、自然と別の部屋で寝るようにはなったが、今思い返しても本当に大胆なことをしたなと恥ずかしくて仕方がない。

「……なんとなく、その時の状況が想像できました」

 美春は今の説明でおおよその経緯を理解したのか、ホッと胸をなで下ろすように微笑して得心する。と――、

「今度は他のみんなも一緒に、春人も呼んで同じお布団で眠りたい。そうしたらきっとすごく気持ちよくて、よく眠れるから」

 アイシアはほんの少しだけ、柔らかく口許をほころばせて言う。

「…………寝るどころか騒がしくなる、かもしれませんね」

 美春はその様子を想像したのか、ぽつりと呟く。ラティーファがはしゃいで、サラが注意を促して、そんな光景が最初に思い浮かぶ。

「……確かに、そうね」

 くすりと笑って同意したセリアだった。


 (了)

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