13巻Twitterキャンペーン 目標達成特典ショートストーリーその2
『美春と二人でアマンドへ』
セリアをロダニアへ送り届けてから、しばらくが経った某日。リオはロダニア近郊に設置した岩の家から、必要な物資の買い出しをするために美春を連れてアマンドを訪れていた。
アマンドはやはりリッカ商会の総本店があるだけあって、ロダニアでは揃わない物資も多い。リオと美春は事前に用意したリストに記載した物資を順調に購入して回っていく。二人だけでは買い切れない量の物資を買っているのだが、キャパシティオーバーになる度に路地裏に入っては時空の蔵に荷物を収納しているので、手が塞がることもない。
「残りの物資はあそこのお店で買えるはずです。物資が揃ったらお昼ご飯を食べましょうか」
リオはメインストリートの一角にある出店を指さしながら、隣を歩く美春に提案した。
「はい」
と、美春は自然体で頷く。のだが――、
「美男美女のデートかい? いやあ、羨ましいねえ」
お店でリオと一緒に物資を吟味し終えて注文をしようとしたところで、ちょうど会計を終えた年配の女性客から不意に話しかけられて――、
「へ、デート……? あっ、え!?」
美春はきょとんとした顔になり、かと思えば途端に顔が赤くなってしまった。どうやら買い出しに真剣になるあまり、今の自分達がデートにも見える行いをしていたことをあまり意識していなかったらしい。あとは、もしものために護衛のアイシアが霊体化して付いてきており、今は三人だという意識も強かったというところか。
「初心な子だねえ。お兄さんが羨ましいよ」
年配の女性客はニヤリと笑う。店員の女性もうんうんと力強く頷いている。
「あはは……」
リオは困ったように笑うしかなかった。
「ま、老人があまり若い者の邪魔をしちゃいかんね。失礼したよ」
年配の女性客はそう言って、立ち去っていく。
「っ…………」
美春は顔を真っ赤にしたままだ。
「とりあえず俺達も会計を済ませましょうか」
リオは少しバツが悪そうに、そう提案した。
◇ ◇ ◇
それから、リオと美春はお店を出て、リッカ商会が経営する大衆向けレストランへと移動する。美春はずっとぎこちないままで、気恥ずかしそうにしていた。
店内の席へと案内された後も、向かいに座るリオとは目線を合わせようとはせず、顔を隠すようにメニューと睨めっこをしている。しかし――、
「メニュー、逆ですよ」
「……え? あっ!」
リオがくすりと笑って指摘すると、美春は慌ててメニューを持ち替えた。
「さっき言われたことをまだ気にしているんですか?」
と、リオは尋ねる。
「あ、えっと、私、男の人とデートをしたことはないと思っていたので」
美春はどぎまぎと答えた。
「けど、これまでにも俺と二人で外出したことはありましたよね?」
リオが過去を振り返るように目線を左上に向けながら、これまでにも二人だけでの買い出しは何度かあったと言及する。
「……でも、今みたいにアイちゃんが霊体化して付いてきてくれることがほとんどでしたよね? だから、私、三人でいるつもりで」
「ああ、なるほど」
リオは言われて得心する。確かに、アイシアもいるからか、リオもあまりデートだと意識はしてこなかった。
「これは、デートなんでしょうか?」
美春はおずおずと尋ねる。
(うん、デート)
アイシアの念話がぽつりと脳内に響く。
「っ……」
美春の顔が再び真っ赤になる。アイシアの声が届いたのだろう。
「男女が二人だけで外出することをデートというのなら、今の状況も形式的にはデートになるのかもしれませんね」
リオは照れくささを誤魔化すように笑って、さらりと言った。なんというか、美春と比べるとだいぶ余裕があるように感じられる。
まあ、リオは王立学院時代にセリアと外出したことが何度かあったし、ヤグモ地方ではサヨと二人で買い出しをしたこともあるし、みんなで暮らすようになってからもアイシアと二人きりで行動することが多かった。それに、少し前には意外な人物とも……。
だから、美春よりは異性と二人きりで外出する経験は豊富なのだ。
「……ハルトさんは、あるんですか? これまでにもデートをしたこと」
美春は気になったのか、リオの顔色を窺って問いかける。
「まあ、形式的に該当する状況ならそれなりに……。それこそ、アイシアとかセリアとか」
事細かに過去のデート遍歴を語るのもおかしい気がして、美春も知る人物とのことだけ伝えるリオだが――、
(本当はもっとあるんだろうなあ)
なんとなく、自分の知らない女性ともデートをしたことがあるんだろうなと察した美春だった。
(了)