13巻Twitterキャンペーン 目標達成特典ショートストーリーその3 『クリスティーナのお願い(前編)』

作者:北山結莉

13巻Twitterキャンペーン 目標達成特典ショートストーリーその3
『クリスティーナのお願い(前編)』


 場所はベルトラム王国東部。これは、リオがセリアとクリスティーナをロダニアに護送する道中の話である。途中で立ち寄った大きめの都市で、その日の宿を確保すると――、

「アマカワ卿、少しご相談したいことがあるのですが……」

 クリスティーナがヴァネッサやセリアやサラ達とともに、リオがいる男部屋を訪れてきた。

「何でしょうか?」

 リオは椅子から立ち上がり、姿勢を正してクリスティーナに応じる。

「その、アマカワ卿と二人で都市の中を散策してみたいのです」

 クリスティーナが遠慮がちに用向きを切り出した。彼女ほど美しい少女からのお誘いとあらば二つ返事で承諾してしまう少年も多いだろうが――、

「…………私と散策ですか? 二人きりで?」

 急なデートのお誘いに困惑し、オウム返しで尋ね帰すリオ。

「はい」

 クリスティーナはぎこちなく頷く。

「……理由を伺ってもよろしいですか?」

 リオはクリスティーナを見つめ返して尋ねた。どうして自分と二人だけという条件を設定したのか、理由がわからない。
 それに、今の彼女は捜索部隊に追われて本国から逃亡している身だ。髪の色を変えて変装しているとはいえ、できるだけ人前を出歩かないに越したことはない。そんなことはクリスティーナならば百も承知のはずだが、それでもあえて外に出ようとする目的も気になった。

「先日、宿場町で見つけた手配書の件とも絡むのですが、我々の足取りを掴んで後をつけている者がいないか、確認できないかと考えまして」

 と、クリスティーナは理由を打ち明ける。確かに、リオ達の特徴と一致する者達が記されていたあの手配書のことは気になっていた。もしかしたら今だって宿の様子を窺っている者がいる可能性だってある。
 一応、わかりやすく宿を見張っている者はいないが、レイスが絡んでいるとしたらそう簡単にあちらの所在を掴ませるとは思えない。精霊術による探査も日中の都市のように魔力源の多い人混みの中では十全な効果は発揮できない。逃走している関係上、調査に深入りしすぎるのは好ましくないが、最低限探っておきたいところではある。だから――、

「それは……殿下自ら囮となる、ということでしょうか?」

 リオはクリスティーナの意図を推察して確認した。

「はい。あまり想像したくはありませんが我々がこの宿にいることが知られていると仮定して、私が少ない護衛をつけて外に出ることで相手の動きを掴めればと考えました。そんな相手などいないに越したことはありませんが……」

 と、クリスティーナは理由を掘り下げる。すると――、

「そこで姫様の護衛をアマカワ卿に頼めないかと思ったのだ。引き受けてはくれないだろうか?」

 ヴァネッサが話に加わってきた。

「ヴァネッサさんは同行されないのですか?」

 リオが訊き返す。

「無論、本来なら私が護衛を……と言いたいところなのだが、私よりもアマカワ卿が適任なことは自覚している。先んじてセリア君達にも話をした上で、アマカワ卿が適任だろうと結論も出た。一応、私は少し離れた場所を歩いて周囲の様子を探ってみようと思っているがな」

 と、ヴァネッサは傍に立つセリア達を見やりながら語る。

「私の能力を高く買ってくださり光栄ではありますが……、私は護衛としての訓練を受けたことがあるわけではありません。単独では無事に殿下をお守りできるとは限りませんよ?」

 リオが思案して答える。ヴァネッサも傍にいるというのならばともかく、流石に二人きりという状況で都市中での王女の護衛を安請け合いするのは躊躇われた。

「その訓練を受けてきた者から言わせてもらうのならば、アマカワ卿ほど護衛として理想的な人物はいないのだがな。視野が広いし、周囲への警戒と危険の想定も怠らないし、護衛対象への細かい気配りができている。旅をして都市の中を歩き慣れているのもアマカワ卿だし、何よりも護衛として最も必要な強さを持ち合わせている。そのアマカワ卿に護衛が務まらないのであれば、我が国の騎士のおよそ誰にも姫様の護衛は務まらないだろうよ。今回の狙いは手薄に見せかけて隙がない状況を意図して作り出そうとしているのだから、尚更だ」

 ヴァネッサが謙遜するリオの態度に苦笑しながら、賞賛してそこまで語ると――、

「ハルトさんが適任だ、というのは我々も同感です」

 傍に立つサラが同意した。

(リオさんと二人だけで外出するのは別の意味で心配ですけど)

 と、そんな乙女心を抱きながら……。そんな彼女の気持ちを知ってか、オーフィアがふふっと笑っている。一方で、クリスティーナは少しバツが悪そうだ。
 果たして、リオはクリスティーナからのお願いを受けるのか、受けないのか、セリアやアルマの注目も集まる中――、

「…………畏まりました。では、僭越ながら」

 やや躊躇いがちに承諾するリオ。

「ありがとうございます、アマカワ卿」

 クリスティーナはわずかに緊張しているのか、ぎこちなく頭を下げる。

(うむ。これを機に姫様もアマカワ卿の勧誘を行ってくれるとよいのだが)

 ヴァネッサはそんなクリスティーナを見ながら、彼女によるハルトの勧誘を期待する。
 かくして、リオはクリスティーナと二人だけで都市の中を散策することになったのだった。


【次回へ続く】

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