特別外伝 アイシア編

作者:北山結莉

未開地の地形と気候は複雑だ。これはリオとアイシアが精霊の民を出発し、未開地の空を飛んでシュトラール地方へと向かう途中の話である。
 まだ日が傾き始めるよりも前の時間帯に、リオ達は未開地の一角に広がるステップの上空を飛んでいた。すると――、

「少し早いけど、今日はこの辺りで移動を止めようか。あそこのオアシスの近くに岩の家を設置しよう」

 リオが眼下の前方にそびえるオアシスを指差して、アイシアに提案する。

「わかった」

 アイシアが頷くと、リオは緩やかに高度を落として、オアシスへ接近した。アイシアもその後を追いかける。

(周辺にそこまで危険そうな生物はいないみたいだな……)

 と、リオはオアシスの水辺に着地して、自分の魔力を含ませた風を周囲へ放ち、魔力反応を探ると――、

「綺麗な泉だね」

 アイシアに語りかけた。

「うん。水浴びしたら気持ちよさそう」

 アイシアはそう言って、こくりと頷く。

「水浴び?」
「水着があるから」
「……そういえば里へ行く前にアマンドで買ったんだっけ」

 リオは微かに目を見開くと、ふと記憶を振り返った。まだ美春達と一緒にシュトラール地方で暮らしていた頃、亜紀や雅人も連れてアマンドに買い物へ行った時の話だ。

「リッカ商会の水着は作りがいいらしい。サラ達も美春達が買ったのを参考にして、新しい水着を作るって言っていた。できたら水浴びをしようって」
「あはは、そっか。じゃあ、当分はみんなと一緒に水浴びはできないかもしれないから、ここで水浴びをしようか。この辺りは気温も高いし、俺で良ければ付き合うよ」
「じゃあ着替える」

 リオが提案すると、アイシアはこくりと頷いた。

「わかった。なら、とりあえずこの近くに家を出そうか」

 それから、リオは適当なスポットを探して、岩の家を設置する。家の中で棚にしまっていた水着を引っ張りだすと、二人で別々に着替えることにした。
 リオはアイシアよりも早く着替えを済ませると、一足先に泉へ赴く。泉の水面に手を振れると、魔力を流し込んで、風の精霊術による探知と同じ要領で魔力反応を探り始めた。

(……泉の中もおそらく問題なしと)

 絶対に大丈夫と断言はできないが、後で泉の底に潜って調べてみればいいだろう。せいぜい少量の魚が泳いでいるくらいのはずだ。

(少し暑いけど、良い天気だ)

 リオはまだ日が昇っている空を仰ぎ、眩しそうに目を細めた。確かに水浴びにはもってこいの天気である。あまり自分から積極的に何かを望まないアイシアが、水浴びをしたがるのも無理はないのかもしれない。
 それから、リオは泉を眺めながら準備運動をして、アイシアを待っていると――、

春人(はると)

 と、後ろからアイシアの声が聞こえた。

「……アイシア」

 リオは背後を振り返る。すると、思わず目を開いてしまった。そこに立っていたアイシアがあまりにも美しく、可愛らしかったから。
 アイシアはセパレートタイプの水着を着ていた。いわゆるビキニである。露出度は高いが、シースルーのパレオを身に着けているからか、どちらかといえば清楚な雰囲気で、あまり際どい感じはしない。スタイルがいいからか、この上ないほど似合っていた。

「水着、着てみた。着方、変じゃない?」

 アイシアは両手でパレオの裾を掴み、窺うように小首を傾げる。

「……すごく似合っていると思うよ。綺麗だ」

 リオは小さく息を呑むと、抱いた感想をそのまま口にした。

「なら、良かった」

 アイシアは柔らかく微笑する。すると、リオは柄にもなくどきりと心臓が高鳴り、頬が熱くなるのを感じた。

「早速だけど、水浴びをしようか。水辺の付近は浅いけど、奥の方がどれくらい深いかはわからないから、ちょっと潜ってき調べてみるよ。すぐに戻るから、アイシアはここで遊んでいて」

 リオはそう言い残すと、気恥ずかしさを押し殺すように、そそくさと泉の中心部付近へ向かってしまう。そして、風の精霊術で飛翔(ひしょう)すると、そのまま水中にざぶんと身を沈めた。同じく風の精霊術で周囲の空気を固定し、水中でも呼吸できる特殊な空間を形成すると、深度を下げて辺りを眺める。

(……広さはあるけど、そこまで深くはないみたいだな。危険そうな水棲(すいせい)生物もやっぱりいなそうだ)

 透き通った水の空間はとても綺麗で、きらきらと輝いていた。リオはそんな非日常的な空間に身をゆだね、しばしぼんやりと眺める。すると――、

(戻ろう)

 と、そう思ったところで、ざぶんと、上方から音が聞こえてきた。リオが頭上を見上げると、風の精霊術で自分の空間を形成し、水中に突入してきたアイシアがいて――、

「春人、何かあったの?」

 リオの隣にまで潜って手を繋ぎ、話しかけてきた。戻りが遅いのを心配したのだろう。

「いや、水中の景色を眺めていたんだ。綺麗だなと思って」

 リオがそう言うと、アイシアは水中を見回して――、

「うん。綺麗」

 と、短く首肯する。そして、不意にリオの手を握った。
 リオはアイシアの手を優しく握り返すと――、

「上へ戻ろうか。せっかく水着に着替えたんだし、普通に泳ごう」

 そう提案する。

「うん」

 アイシアが頷くと、リオはアイシアの手を引っ張って水辺へ移動する。そして、水面で顔を出したところで――、

「精霊術を解除するよ」
「うん」

 風の精霊術により形成していた空間を解除した。直後、空気で押し除けられていた水がリオとアイシアの身体を包み込む。

「冷たい」

 アイシアは抑揚のない声でぼそりと呟いた。

「だね。でも、ひんやりとしていて気持ちがいい」
「うん。……ちゃぷちゃぷ、じゃぶじゃぶ?」

 リオが問いかけると、アイシアが頷き、片手で水を救い上げて、もてあそびだした。次第に精霊術で水を自在に(あやつ)り遊び始だす。

「流石、上手だね」

 リオは目をみはり感心して、アイシアを褒め(たた)える。すると――、

「春人も水遊び、一緒にしよ? 何する?」

 アイシアが無垢(むく)な眼差しを向けて、リオを誘った。

「……そう、だね。せっかく二人で貸し切りだし、遊ぼうか。アイシアのやりたいことに付き合うよ」

 あまり柄ではないけれど、たまには童心に返るのも悪くはない。それから、リオは日が暮れるまで、アイシアとの水遊びを満喫した。
 
 
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