1.プロローグ「家族への報告」

作者:坂本一馬

行方不明になってから七年間が経過すると、日本の法律では死亡扱いとなることをご存知だろうか?
 この七年間という条件は、行方不明の原因にある条件があると一年間に減らされる。
 戦地に赴いた、沈没した船に乗っていた、大規模な災害に遭遇した。
 そして、戦災に巻き込まれた。
 この条件に当てはまる事件が十年前に起きた。
 十年前、全天(ぜんてん)開拓府(かいたくふ)と呼ばれる組織が宇宙の果てからやってきて、とある目的で地球に攻め込んだのだ。
 その戦争では多くの人が拉致され、地球の外へと連れて行かれてしまい、行方不明となった。
 それ(ゆえ)、先ほどの法律に従った結果、一年で百万をゆうに超える行方不明者が死者へと変わった。
 そして、先日の事件で武勲(ぶくん)をあげた如月連(きさらぎれん)も、家族を全天開拓府にさらわれ、両親が死亡扱いとなって戦災孤児となるはずの少年だった。
 だが、そうはならなかった。
 ちょっと変わった人達、というと《人》という言葉に関しては語弊があるかもしれない。それでも、人として共に暮らす新しい家族を手に入れていたのだ。

 巨大な人型生体兵器をその身に宿した《神器(アーク)》と呼ばれる新しい人とともに。

 そんな新しい家族とともに十六歳まで成長した蓮は、黒髪に琥珀色の瞳、少し幼さが残る顔の青年となった。

「久しぶり。父さん、母さん。俺、新しい家族が出来たんだ。次に会ったときにはびっくりするかもな」

 黒い慰霊碑の前で蓮は柔らかな表情で、いなくなった家族に新しい家族を報告する。
 蓮のいる公園は、慰霊碑を中心に鮮やかな緑の芝生が敷き詰められ、花壇には赤色や黄色の花が咲き乱れていた。
 そして、慰霊碑の献花台には、さらわれた人達の無事を祈る花が捧げられている。
 その献花台に、新しい花を捧げる二人の姉妹がいた。

「お久しぶりです。蓮は元気にやっているから、安心して待っていてください」

 風でふわっと舞うさらさらとした金髪の少女が蓮の義姉のエリー。
 頭には猫耳を思わせるヘッドセットがついていて、赤い宝石のような瞳を宿している。
 そして、もう一人、蓮の義妹になった少女が蓮の手を引っ張って、不思議そうに首を傾げた。

「ねぇ、蓮兄もエリ(ねえ)も誰に話しかけてるの?」

 エリーをそのまま幼くしたような顔の小さい銀髪少女レイアが、蓮の袖を引っ張りながら尋ねた。
 レイアの髪は太陽の光で銀色に輝き、その頭の上にはエリーと同じ猫耳形のヘッドセットがついている。そして、彼女もまた赤い瞳を宿している。

「レイアのことを伝えたかったんだ」
「石に? お父さんもお母さんも石じゃなくて人間でしょ? それとも、地球の人は石と同化する能力があるの?」
「あはは。違うよ。この石は全天開拓府に連れ去れた人達が安らかに眠れるように、っていう祈りの石なんだ。でも、まだ連れ去られた先で生きているなら、ここで繋がっている気がするから、ここでみんなお祈りするんだよ」
「へー。レイアの声も届くの?」
「きっとね。だから、挨拶してくれると嬉しいな。いつか会えた時に緊張しなくて済むようにする練習みたいなものだよ」

 そして、これは蓮自身への誓いだ。
 法律上両親や友人は死んだことになっているが、蓮はまだ連れ去られた両親や友人が生きていて、また会えることを信じていた。
 だって、石の下に死体は一つも埋められていない。だから、まだどこかで生きていると信じられた。
 そういった祈りがこの公園には集まっている気がして、蓮は何か大きな変化があると、この場所に来て報告をしてきた。

「初めまして。レイアだよ。この前、蓮兄が強引に押し倒してきて、無理矢理妹にさせられちゃったの」
「誤解を招きそうな言い方だな……」
「大体あってるよ?」
「うっ……。確かに……」

 レイアの言う通り、困った事に彼女の説明に間違いは見られない。
 蓮は抵抗するレイアを押し倒し、彼女を敵の支配下から自分の所へと奪い去った。
 だが、その奇跡は蓮一人ではなく、エリーもいたから起きたのだ。
 こんな言い方をしたら、エリーが呆れて笑いそうだなぁ、と蓮が思いながら振り向くと少し予想とは違っていた。

「エリー? 何でそんなに悩んでいる顔をしてるの?」
「私の人生設計について、ちょっと考え直していたの」
「人生設計?」
「蓮、お姉ちゃんを押し倒しなさい!」
「ぶっ!? 急に何を言い出すんだ!?」
「私はもうお姉ちゃんだから、押し倒されたらお嫁さんになると思って!」
「ちょっと待って! どうしてそうなった!?」
「そうだね。確かにお嫁さんは飛びすぎたかも。いきなりそんなこと言われたら、蓮も困るよね」
「え、あ、うん」

 あっさり考えを引いてもらえたが、蓮の心臓は飛び出すのではないかと思うほど、ドキドキして暴れていた。
 これでいつも通り甘えてきたら、本当に押し倒しかねなかった。
 蓮が何とか理性を取り戻そうと深呼吸をしていると、いつの間にか蓮の右手にしっかりとエリーの両手が重ねられていた。

「まずは恋人からだよね! この先に行きたければ、この私を押し倒してから行くのよ!」
「また何かの漫画に影響されたな!? というか俺ちゃんと――!」

 ちゃんと告白しただろ!? キスまでしただろ!? という蓮の言葉は喉まで出かけて恥ずかしくて飲み込んだ。
 こんなどこか一般の常識から外れた赤い瞳の姉妹。
 人ではないけど人である彼女達は、神器と呼ばれる人型生体兵器で、人が神に進化するための器をその身に宿している。

「あー……もう……。何かこれ以上ここにいると、もっと変なこと言いそうだし、帰ろう」
「あはは。そうだね。蓮の元気な姿もご両親に見せられたし。家に帰ろっか」

 そう言ってエリーが手をあげると、彼女の頭についたヘッドセットから光の粒が飛び出し、巨大な人型の光へと形を変えた。

「よいしょっと、んじゃ、ひとっ飛びするから、二人とも乗って乗って」

 白いドレスに赤い刺繍が施されたような造形をした八メートルを超える人型兵器から、エリーの声がする。
 人間としての肉体も、鋼鉄の身体もエリーの身体だ。
 そんな鋼鉄の身体と人の身体を持つ新たな人類を、世界は生体兵器《神器》と呼んだ。
 蓮とレイアが鋼鉄の巨人となったエリーの手に乗り、胸元に空いたコクピットに乗り込む。
 二人が乗り込んだコクピットの奥には、身体の主であるエリーが椅子に座って待っていた。
 鋼鉄の身体を展開しても、人の身体は失われない。神器が人から生まれた名残だ。

「よろしくエリー」
「はーい。お姉ちゃん、任されました」

 エリーの声とともに景色が下にずれていき、あっという間に街並を一望出来る高度に達し、白い鳥にでもなった気分で、蓮達は空を飛んだ。
 この物語は生まれも育ちも種族すらも違った三人が、奪われた全てを取り戻す物語である。

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