8.「出禁の力」

作者:坂本一馬

蓮達が部屋に戻ると、美希=フィリアペアが数分と経たずにやってきた。
 だが、蓮は彼女を歓迎出来なかった。
 なぜなら、チョコレートをかじりながら(とろ)けきった顔を見せるエリーとレイアが、蓮の膝枕で横になっているせいで動けないからだ。
 もはや蓮の扱いは人をダメにするクッションみたいな扱いだった。
 その姿を見た美希が(あき)れたようなため息をついて、冷たい視線で見下ろしてくる。

「お邪魔するわねー。――って、本当に邪魔なら帰るけど」
「どっちかって言うと助けて欲しいかも……。足が痺れて動けないんだ」
「……チョコレートよねそれ? 怪しい薬とかじゃなくて」
「いつものチョコレートだよ……。ただ、二人ともちょっとのぼせたみたいなんだ」

 それと、温泉のおかげで、緊張の糸が切れて疲れが出たのだろう。
 どうしようもなくだらけきっている姉妹に美希がもう一度ため息をつくと、エリーとレイアを引きずって椅子に座らせた。
 残念ながら机につっぷす形になってしまったが、幸せそうな顔をしているので起こさず、そのままにするよう蓮は美希に頼んだ。
 そうして一仕事終えた美希とフィリアは、蓮と向かい合う位置に腰を下ろした。

「全くあんた達はいっつも緩いわねぇ。フィリアはこう見えてしっかりしてるのに」
「でも、ちょっと羨ましい」
「あら? それならご飯までフィリアにも膝枕してあげようか?」
「お願い」

 眠たそうにしていたフィリアが頭を美希の膝の上に乗せて、気持ちよさそうに目を閉じている。
 少し前まで神器を道具だと言っていたとは思えない美希とフィリアのやりとりに、蓮は嬉しくなって笑った。
 美希もフィリアも前まで被っていた仮面を捨てて、()の状態で蓮に接してくれていることが、なんだかとっても嬉しかったのだ。

「なによ?」
「いや、二人ともかわいいなって。こうやって見ると本当に仲の良い姉妹みたいだなってさ」
「なっ!? 急に何いってんのよ!? 最近余計にエリーに似てきたんじゃないの!?」
「はは、どうかな? 確かにちょっと似たかも。レイアのおかげで。ふふん、何しろ俺もお兄ちゃんだからな。兄の自覚が出てちょっと成長したのかも」
「ったく、そういう意味じゃないってのに……。まぁ、いっか。でも、ありがとうね。あんた達のおかげでフィリアとこうして接することが出来るし」
「兄さん助けような」
「えぇ、言われなくても」

 自信満々な笑みを見せる美希に合わせて蓮も頷いた。
 あまりにもいつも通り過ぎる美希の様子に、蓮は逆に違和感を抱いた。
 美希はその笑顔の裏に色々な葛藤を押さえ込んでこの場にいるはずだ。
 なにせ、一度手の届いた助けたい兄の元から離れた上に、突き出せば兄を取り返せる蓮の味方になってくれている。
 交渉カードを手に持っているのに何もしないのは、武雄に止められたからとか、モーテルに止められたからというだけでは到底説明つかないことのはずだ。
 最悪の場合、裏切る可能性だってある。でも、蓮はその可能性だけは信じたくなかった。
 だからこそ、エリー達が寝ている時に踏み込むしかない。

「美希、何を知ってる? エリー達が寝ている間に教えて欲しい」
「良く分かったわね?」
「俺だって昔の知り合いに会って、メチャクチャ驚いたんだ。なら、兄さんに会えた美希はもっと動揺してもおかしくないのに、普段通り過ぎる」
「ふぅ、出来ればもうちょっとタイミングを測って欲しかったんだけど、これよ」

 そう言って、美希が学生証である電子カードを机の上に置くと、机がプロジェクターとなり蓮が見たことの無い街並(まちなみ)が映し出された。
 未来的な高層ビルが並び、宇宙港のような巨大な開口部から巨大な戦艦がせり出してくる。

「これは島に来ていた戦艦じゃないか?」
「うん、この時も条件はやっぱり同じように捕虜交換だったみたいだけど……」

 美希の声が途切れたことを、蓮が不思議に思いながら映像を見つめていると、すぐに動きがあった。
 戦艦が突然発砲し、無数の粒子の矢がビル群を焼き払ったのだ。

「なっ!? いきなり攻撃した!?」

 何の前触れ、警告も、宣戦布告もなく、ただ一方的に攻撃が始まり、生活の痕跡を一つも残さない勢いで、あらゆるものを焼いていく。
 蓮の覚えている十年前にあった戦禍よりも酷い物だった。
 もちろん、十年前地球を救った救世主と言われる神器も反撃に出るが、連携もとれず次々撃ち落とされていく。

「まるで歯が立ってない……一方的な虐殺じゃないか」
「捕虜になった全天開拓府の人達の中から、裏切り者が出る前に街ごと焼いたらしいよ。この映像だけなら、兄さんのために全天開拓府を信じていたかもしれないけど、あんたの姉さんと妹の話を聞いたら、全天開拓府の言葉を信じられる訳がなくてさ。武雄も同意見だよ。そうでしょ?」

 そう言って美希が指さした先に視線を向けると、いつのまにか食事を運び入れた武雄とハルトが机の横に立っていた。

「ま、そういうこと。素直にエリーちゃん達を出しても十年前より酷い目にあう。なら、俺は全員助けられるお前ら如月トリオの力に賭ける。そのためなら協力は惜しまないさ」
「全く、僕の主は危険な賭け事がお好きなようです。フフ、賭け金は全額のみの一発勝負ばかりな気分ですよ。分の悪い賭けは嫌いなのですが、ここで蓮さん達に賭けないと全てなくなってしまいますからね。賭けざるをえません」

 武雄とハルトが映像の終わった机の上に食事を並べ始め、迷いの無い口調で蓮の味方であることを断言する。
 力強い武雄の表情も、どこか自虐的なハルトの笑みも何故かいつもより妙に頼もしく見える。

「つー訳さ蓮。俺だって、この中で一番強いのはお前らだって分かってる。だから、俺達もお前のサポートを全力でこなしてやる。お前は全部取り戻すって決めてるんだろ?」
「みんな……ありがとう」
「へっ、感謝の言葉は全部終わらせからにしてくれや。そういうの死亡フラグって言うんだろ?」
「ハハ、だな。なら、若、おかわりも好きなだけ大丈夫か?」
「あぁ、いくらでも持ってくるさ大将」

 遠慮も隠し事もこれで無くなった。間違い無くこの部屋にいるメンバーは全天開拓府と戦って、大切な人達を取り戻すつもりでいる。
 ならば、今蓮がするべきことはただ一つ。
 相棒達の調子を万全にすることだ。
 ちなみに武雄、おかわり自由はことさらエリーを前にしたら死亡フラグだぜ。ということを蓮は武雄の好意を良いことに、隠すことにした。
 なにせ、机の上には白いご飯だけで無く、野菜の煮物が入った小鉢や刺身が盛りつけられたお皿、分厚いステーキ肉が焼かれている鉄板、海と山の幸の天ぷら、豚肉と野菜の寄せ鍋など、豪華(ごうか)絢爛(けんらん)な食事が並べられている。エリー達にとっては最高の補給物資だ。

「よっしゃ! エリー、レイア、喜べ! 晩ご飯食べ放題だっ!」

 食べ放題。魔法の言葉の最上位版とも言える響きともに、蓮がご飯を盛ったお茶碗を二人の姉妹の前に置く。
 すると、姉妹は同時にピクッと大きく震えて身体をゆっくり起こした。

「「いっただきます!」」
 (はし)(つか)み勢いよくご飯に食らいつくと、すぐに幸せそうな笑顔を見せた。
「「おいしい!」」
「この食いっぷり板前に見せたら喜びそうだな」

 エリー達の豪快な食べっぷりに驚きつつも喜ぶ武雄に、蓮はまだまだだなと呟いた。
 もはや、食べ放題と聞いたエリーは止められないし、今日は初めてレイアも参戦する。
 何が起きても不思議ではないのだ。
 というのも、エリー一人で食べ放題の店を何度出禁になったか分からないからだ。
 既にブラックリストが回っているのか、初めて訪れた店でも入店を断られたところまである。
 その相手に余裕を見せるなんて可愛そうに、と思いながら蓮は慣れた手つきで食事を始めた。

「武雄、ハルト、美希、フィリア。悪いがこうなったらエリーは止められない。エリー達の暴走に巻き込まれないように、自分の分は自分で確保してくれよ。いただきます!」

 蓮はさりげなくエリー達の料理から自分の分を遠ざけると、一番美味しそうな分厚いステーキから箸をつけた。
 そうしなければ、どうなるか簡単に予想がつくからだ。
 それを知らない武雄は随分(ずいぶん)のんきなツッコミをしてくる。

「蓮、いくらなんでもがっつき過ぎじゃないか? 落ち着いて食えよ」

 なんて言っている間に早速被害が出た。

「あ、武雄君のステーキ、エリーさんに取られてますよ」
「うおおおっ!? マジだっ!? 箸の動きが見えなかったぞ!? ハルト急いで俺らの分を隔離(かくり)しろ!」
「了解しました。素早さだけなら負けません。近づいてくる箸を的確に打ち落とします。さぁ、武雄君今のうちに僕達の分を確保しましょう」

 武雄の指揮下で、エリーと謎の張り合いを始めたハルト。

「フィリア……人参食べて」
「美希、好き嫌いは早く直すべき」
「お願い! どうしても人参だけはダメなの!」

 そして、嫌いな物を押しつける美希とたしなめるフィリア。
 エリー達の歓声に武雄の悲鳴が時折混じる。
そんな騒がしくも楽しい時間が過ぎていく。
 そして、皿が積み重なっていき、もはや何回おかわりしたか数えるのを諦めたあたりで、ついにご飯が尽きた。
 食べ放題の戦いはエリーの勝利に終わり、仲居さんが引きつった笑いを浮かべながら皿を片付けていったのが印象的な結末だった。
 これはもう多分二度と食べ放題はないだろう。
 そんな戦場とも見間違える食事が終わり、机の上が片付いたところで、エリーは大きく伸びをした。

「はー! 食べた食べた! お腹いっぱい。いやー、おいしくて、ついつい食べ過ぎちゃった」
「レイアもお腹いっぱい。デザートある?」

 満足しきったエリーとレイアは蓮の両肩にもたれかかり、満足したようにお腹をさすっている。
 これだけ食べても一切太らない所か、数時間するとお腹空いたと言うのだから、神器の方に相当なエネルギーをもっていかれているのだろう。
 恐ろしいまでの食べっぷりを初めて見た武雄は、もう愛想笑いを浮かべることもせず、脱力しきった様子で蓮の前でうなだれている。

「すまん蓮。やっぱり今度からは制限つけさせて……」
「うん……知ってた。旅館ならもしかしてエリーの食欲に勝てるかもと思ったけど、ダメだった……」
「これが最強の神器の実力……あなどれん……」
「あぁ、これが家計を火だるまにし、他人の小遣いまでをもおやつ代に変える力だ」
「人類はまだ荒ぶる神を養えないというのか……」

 武雄が真っ白になりながら意味の分からない事を言っているが、蓮には言わんとしていることが何となく分かった。
 そうやってしみじみとエリーの食欲について蓮と武雄が恐れを語っていると、誰かが手をパン! と思いっきり叩く音が部屋にこだました。
 音のした方に振り向くと美希が立ち上がっていた。

「アホなこと言ってないでご飯も食べ終えたんだから作戦会議をする! 明日の夜明け前には出るんだから。仮眠とるためにも早く終わらせようよ。モーテル様から作戦ファイル貰ってるし」

 美希の一言で空気が引き締まり、緩んでいたエリー達もスッと姿勢を正した。



 綺麗(きれい)に整理された机の上にカードが置かれると、またもや机の上が画面に変わり、全天開拓府の(こう)(ちゅう)戦艦(せんかん)メタトロンが映し出される。
 全長六百メートル、全幅三百三十メートル、全高三百五十メートル。
 砲門は大小合わせて四百門。三百六十度どこを見ても砲台がついている。
 バカみたいな数字がデータとして並べられ、蓮達は揃って息を飲んだ。
 だが、搭載された猟犬部隊は三十機機前後と図体に比べて数が少ない。
 そして、もう一つ特徴敵だったのが五十人程度しかクルーがいないことだ。パイロットが三十人だとすると、船の管理をするクルーはたったの二十人しかいないことになる。

「なぁ、レイア。何でこんなに人が少ないんだ?」
「自動航行システムと迎撃システムで、操作する人手はほとんどいらない。必要なのは全天開拓府からの指令を受け取って、指令をこなせるだけの数がいれば良い」
「にしても、猟犬部隊も随分少ないような気がするんだけど」
「メタトロン一隻で猟犬部隊百機分の火力はあるから問題無いよ。あの船の猟犬は廃墟に残った人間の回収任務用にいるだけだから」

 それだけ全天開拓府は戦艦メタトロンに絶対の信頼を置いているということだ。
 星の一つや二つ簡単に焼き払えるつもりで、建造したのだろう。
 そうであれば、白兵戦用の機動部隊は必要無く、人や資源を回収する部隊だけで十分ことたりる。

「だからこそ、この作戦でいけるんだな」

 防衛部隊が少ないのなら、奇襲を仕掛けて部隊が展開する前に船にとりつけば、メタトロンが動く前に勝負が決められる。
 まずは奇襲でエリーまたはレイアを船に取り付かせて、レイアは船の火器管制システムを奪取、エリーは腕輪のシステムを停止させる。その後、内側から戦艦を破壊する。

「硬そうなセキュリティがあるだろうけど、お姉ちゃんとレイアの前ではそこの障子みたいなもんだよ。数秒あればすぐに穴を開けて、止めてみせる」
「うん。レイアにやぶれないセキュリティはないよ」

 エリーとレイア、どちらが欠けても多大な被害が出る。蓮が二人の姉妹を救ったからこそ出来る無茶な作戦だ。
 そもそもエリーとレイアがその任務をこなす力がないといけないが、それについては全く心配する必要が無かった。
 何せこの二人は進化し続ける最強の神器なのだから。
 絶対的な自信を見せる姉妹に蓮だけでなく、武雄や美希達もホッとしたように笑う。
 取り付いた後は問題ないとなると、問題になるのは取り付き方だ。
 いかに敵に気付かれず接近し、内部に侵入する穴を作るか。それが大きな問題となる。
 エリーかレイアが敵の視界に入った瞬間に、間違い無く戦闘が起こるし、腕輪の毒が発動するかもしれない。
 ギリギリまでエリーとレイアが近づいていることは悟られてはならない。
 迅速にかつ隠密に。そして、ハッキングに集中するために無防備となる二人を守る者も必要だ。
 その条件を解決するための人材はバッチリ揃っていた。
 武雄がハルトと肩を組み、親指を立てる。

「蓮、俺とハルトがお前ら三人を乗せていく」
「僕の速度ならエリーさんに負けませんしね。一気に敵艦へと皆様をお届けします。ちょっと狭いですけど、それは我慢して下さいね」

 航路に関してはモーテルが事前に海中に神器を展開し、ステルスフィールドを発生させておく。そうしてレーダーに引っかからない道を進み、敵艦の真下まで海中で接近して急襲する。
 その道を進むための機動力をハルトが担う。
 続いて美希とフィリアも咳払いすると、自分達の役割を表明した。

「私とフィリアが突入時に邪魔する敵を海上から撃ち落とす。あんた達が取り付いた後は防御フィールドを展開して、あんた達を守る盾をしてあげるわ」
「がんばって守り抜くよ。だから、安心して自分の役割を果たして」

 バックアップ要員として、防御力が高く、砲撃能力の高いフィリアが蓮達の背中を守る。
 そして、人質は戦闘に巻き込まれないようにシェルターに隔離し、敵の輸送艇はリストの整合性を確かめる名目で島に降ろすよう、モーテルが交渉するらしい。
 敵を分断し、人質を戦場から引き離した状態を作る。
 現在の戦力で最大限の効果が見込める戦術的配置だ。
 戦術といっても各々(おのおの)が出来ることを精一杯やるといった程度の作戦。正直なところ出たとこ勝負と言っても良い。

「なぁ、蓮。今更、俺が言うのもなんだけど、これって作戦っていうよりもやることリストじゃないか?」
「そうとも言うかもな」
「だけどな蓮、作戦っていうのはだな。色々な状況に対して対応することを考える事であって。とあんま言いたくないことだけど」
「もう十分過ぎるほど言ってるよ。俺だって分かってる」
「でもだ。俺らはそんな作戦も何もあったもんじゃないやり方で、この前助けられた。だったら、今回も大丈夫さ。頼むぜ大将!」

 そう言って、机に身を乗り出した武雄が拳を蓮に向けて突き出してくる。
 武雄は精一杯カッコ付けてはいるが、蓮は少しだけ彼の拳が震えているのが見えた。
 実際、怖くない訳がない。自分達の動き次第で、さらわれた家族や人質数百万人の命が左右されるのだ。
 それでも前に進もうとする武雄の勇気に、蓮も精一杯格好付けて応えることにした。

「俺達が絶対に何とかしてみせる。だから、任せとけ」

 蓮は自信満々な笑みを作りながら、武雄の拳と軽くぶつかるくらいに拳を突き出した。
「ふふーん! お姉ちゃんに任せなさーいっ!」

 そこにエリーの拳が混ざると、今度はハルトが手を真っ直ぐ伸ばした。

「微力ながらお手伝いしますよ」

 キザっぽくハルトがウインクすると、小柄なフィリアも乗せられたのか机の上に乗り上がって手を出した。

「私がみんなを守る。拓也も取り戻す」

 フィリアが動いたとなれば、美希も動かざるをえないのか、彼女は一度荒く鼻息をならしてから、真っ赤な顔をそっぽに向けて拳をみんなと合わせた。

「ふん、この私とフィリアが参加するのだから、上手く行かないはずがないわ」

 こんな時くらいは素直に言えば良いのにと、レイアをのぞいた一同が同時にくすりと笑う。
 そして、最後にもう一人。蓮の浴衣をつかんだレイアが問いかける。

「蓮兄、エリ姉もみんなも何してるの?」
「レイアもやってみれば分かるさ。ほら、手を出して、自分の思ったことを言えば良いよ」
「レイアもしていいの?」
「当たり前だろ。レイアは俺とエリーの妹で、みんなの仲間なんだから」
「なら、レイアは……」

 蓮の言葉でレイアが浴衣から指を放し、丸めた手を恐る恐る皆の手に近づける。
 最強の生体兵器の複製として生まれたレイアが、初めて知った友達という人達に、どんな願いや覚悟を口にするのか。
 どんな新しい意思を手に入れたのか。
 蓮はレイアの言葉を楽しみ半分、不安半分で待った。
 そして、レイアは若干の溜めの後、彼女の意思を表明する。

「また……今日みたいにみんなでご飯食べたい」

 その言葉と共に場にいる全員の拳が合わさった。
 そして、そのまま七人の拳は離れること無く、自信満々な顔からきょとんとした表情に変わったまま、誰も一言も発さず数秒が過ぎていく。

「レイア、また何か変なこと言った?」

 不安そうなレイアが沈黙を破ると、一番始めに武雄が声をあげて笑い始めた。

「ぷっ、はは。だな。変じゃねぇけど、間違いねぇや。終わったらみんなで飯食おうぜ。拓也さんも蓮と美希の親父さんお袋さんも、みんな揃ってさ。そん時は俺の家もう一度貸し切りにしてやらぁ!」
「えっ!? 武ちゃんまた食べ放題用意してくれるの!?」
「する訳ねぇだろ!? 制限付きだっ! 食べ放題だけは勘弁してくれ! 家が潰れる!」

 武雄の絶叫に蓮が笑い、ハルトも笑い、美希もフィリアも釣られて笑っている。
 当の本人であるレイアだけ意味が分からないのか、せわしなく顔を左右に振っていた。
 そんなレイアの頭の上に、蓮が手を置く。

「みんなレイアと同じ気持ちだったみたいだな」
「蓮兄もエリ姉も?」
「うん、もちろん。だろ? エリー」

 蓮の問いかけにエリーはにっこり微笑むと、ギュッとレイアに抱きついた。

「うん。さすがレイア。良いこと言ったよ! さすが私の妹だね。美味しいご飯はみんなで食べるのが一番」
「うにゃっ!? エリ姉苦しい!」

 武雄と蓮、そしてレイアの意外な機転によって、重苦しい空気もピリッとした空気も綺麗さっぱり無くなった。
 何とかなるんじゃないか?
 根拠の無い自信がついた一同は、それぞれ明るい顔で自室へと戻っていった。
 世界にたったの七人で喧嘩を売る。
 しかし七人の表情は、そんな大それた事をしようとしているようにはとても見えなかった。

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