11.「まがいものの神」

作者:坂本一馬

エリーとレイアをコピーして作られたタイプSE-Dと呼ばれる神器因子には、姉妹の能力が再現されている。
 限界稼働(ハイグラビティブーストモード)とはその能力の一つで、粒子生産量と放出量を爆発的に増やし、攻撃能力、機動力、防御力の全てを引き上げるリミッターを解除した姿だ。
 その変形直後、粒子の刃を引っさげた敵機が目の前に瞬間移動したかのような速度で肉迫した。
 だが、蓮は的確に敵の攻撃を受け止める。

「まがい物はお前達だろうがっ!」
「腐っても最強。通常形態で止めるか!」

 機体の能力で言えば、限界稼働を発動させた敵機の方が速い。だが、パイロットの差は歴然だ。
 なにせ、今の蓮は、髪が銀色に染まり、左眼が赤く染まる半神半人の状態になっているのだ。こうなった蓮は人間の限界を超えた反射速度で、エリーの力を限界以上に引き上げることが出来る。

「レイア! 頼む!」

 そして、エリーと蓮で攻撃の対処が出来れば、レイアは冷静に情報分析ができる。

「蓮兄、さっきの接触で敵機の解析が出来た。あれが隊長機で、情報のハブになってるみたい。戦艦からの通信を一度集めて、あの神器から地球の人達を操ってる」

 レイアの説明によれば、戦艦がサーバーなら、隊長機は情報を受け取り分散させるルーターと言った所か。そして(つな)がれて指示を受けているのが腕輪をつけられた地球人だ。

「なるほど。なら、全力で落とす! エリーやるぞ!」
「任せて。私はまがいものの神様なんかじゃない! 私は如月エリーだ! 限界稼働起動!」

 エリーのかけ声とともに二枚の翼がそれぞれ三つに割れて、敵と同じ六枚羽へと機体が姿を変える。
 それだけではなく、全身の装甲がスライドし、丸みを帯びた機体が荒々しい武神のような姿となった。
 そして最後に、頭にあるエリーのはねた髪の毛と良く似た三日月型の飾りが立ち上がり、ツノのような形へと変形する。

「蓮! 砲撃いつでも!」
「速攻だ! 行くぜ!」

 蓮が敵機との密着状態で剣を振るう。
 そして、蓮の振るった剣の軌跡の反対側から、エリーの操る粒子の矢が襲いかかる。
 蓮とエリーは常に敵の死角を突き続ける連続攻撃で、回避力を奪いながら攻め続けた。
 ただのコピー品であるSE-Dでなく、エリーと同スペックで同じ自己進化プログラムシステム《ERIE》を持っているレイアですらも、対処出来なかった蓮とエリーの連係攻撃だ。
 そんな蓮とエリーの流れるような連続攻撃に敵機から緑色の粒子が弾け、敵を押し始める。

「くっ、さすが最強にして頂点と言った所か」

 納得出来ないように吐き捨てる隊長の言葉だったが、蓮の方が納得出来なかった。
 一方的に押しているように見えて、蓮とエリーの攻撃は一撃も直撃していない。
 (はじ)けている粒子も、敵機がピンポイントで張った防御フィールドの散乱か、粒子ブレード同士の衝突か、粒子の矢同士の衝突だった。
 しかも、たまに当たったとしてもかすり傷のような当たり方しかしない。

「手駒の奴隷を全て捨てねば対処できんとはな」

 敵の隊長が悪態をついた途端、蓮の視界にあったレーダーから敵性反応が一気に消滅した。
 突如、全く攻撃を加えていないはずの元地球人の神器が消えていたのだ。
 もちろん、蓮がおかしくなった訳ではない。拓也の相手をしていた武雄も驚いている。

「蓮ヤバイ!」
「武雄、美希、何があったんだ!?」
「わかんねえ! ただ突然神器が消えて、人が落ちてったんだ!」
「ごめん蓮! でも、私達は救助活動に回らないと! このまま放っておけないから!」

 落ちていった人の中には綾以外にも、蓮の知り合いもいたかもしれない。
 そうでなくとも、さらわれた地球人達だ。人質の回収を武雄と美希に任せなければ、せっかく帰ってこられたのに、死んでしまう。
 だから、彼女たちを止める理由が無い。
 それに、蓮はとある武器があることを思い出し、二人に人質を回収したら島に行くよう命じた。
 おかげで結局エリーとレイアの三人だけで戦うことになったが、そんな酷い状況でも蓮とエリーは不敵に笑っていた。

「エリー、ここまで想定外だらけだけど、俺達だけでやるぞ」
「うん。それにしても、私が言うのも何だけどさ。私って強いんだね。私の物真似でこんなに強くなるなら、そりゃ、みんなSE-D使うよね」
「でも、何か今まで戦った奴とは違う。レイアとも何か違う気がするんだ。何というか死角がない。一人を相手にするには違和感がある」
「やっぱり? 何かゲームで言うと自動防御されてる感じだよね」

 エリーのたとえ話に蓮は妙に納得した。
 というのも、蓮も同じ物を感じていたからだ。狙いが(ことごと)く見抜かれ、先読みでもされているような、そんな感覚だった。
 恐らくその違和感の正体を解明しなければ、決定打は与えられない。
 そう蓮が思った時、レイアが声をかけてきた。

「蓮兄、エリ姉、ここは任せても良い?」
「レイア何をするつもりだ?」
「もう一度あの船に取り付いて情報を奪ってくる」

 蓮はすぐに返事をする代わりに、時間を作るために敵機から距離を離した。

「無理するなよ。危なくなったらすぐ戻れ」
「うん。ありがとう。それじゃ、如月レイア行ってくるよ」

 エリーがハッチを開け、レイアが蓮の膝の上から空に向かって跳躍する。
 すると、レイアの身体からエリーと同じ姿をした黒い神器が現れ、船へと飛翔を始めた。
 蓮はレイアの頼みを断らなかった。
 みんなのためにやることをやると言ったレイアの気持ちを信じると決めて、任せると昨晩決めたのだから。
 だが、それはレイアを危険に(さら)すことにもなる。

「レプリカエリーもいたか。(もら)ったぞ!」

 飛び出したレイアに向けて隊長機が巨大な粒子の塊を放つ。
 レイアの大きさの二倍はあるかのような粒子の(かたまり)は、稲妻のような速度でレイアに襲いかかった。
 だが、その粒子の塊はレイアに届かず途中で真っ二つに引き裂かれる。

「大事な妹に怪我させるわけにいくかよ」
「そうそう。あなたの相手は私たち、お姉ちゃんとお兄ちゃんなんだからね」

 二つに分かれた砲弾の中央にはブレードを二本構えたエリーが佇んでいる。

「レイアに余所見してみろ。一瞬で叩き落とす!」
「面白い。まずは貴様らからだ!」

 蓮とエリーの渾身(こんしん)の挑発で、何とか隊長機の目はエリーに引きつけることに成功した。
 だが戦況は思った以上に互角で、蓮たちの攻撃はいっさい通じなければ、敵の攻撃を防ぐのもギリギリだった。
 確実に敵の防御が上手くなっている。それどころか蓮たちの逃げ道にホーミングレーザーを置いて、トラップのような攻撃までしてきていた。

「機体スペックは互角かちょい下のくせに、なんでこんなに嫌らしい攻撃ばっかりするかなぁ!?」
「なぁ、エリー。相手ももしかしてシステム持ちなのか?」
「ううん。それは感じられない。普通のSE-Dと同じはず。レイアの時みたいな共鳴を感じないし」
「なら、敵パイロットも俺みたいに半分神器化している訳じゃないよな?」
「そんなことある訳ないよ。特権階級になった全天開拓府の人間が、わざわざ奴隷の証を埋め込むなんて」

 エリーの言う通り全天開拓府の人間が自分の身体を改造する訳がない。
 だが、何かしらの補助が無ければ、エリーと蓮の連携についてこられる訳もない。

「何も理解できぬまま死んで()け!」

 そして、近づいて来た敵がトドメを刺そうと粒子の刃を振りかぶる。
 けれど、蓮は全く焦っていないどころか、笑っていた。

「レイアを送り込んだのが大正解だったな」

 振りかぶった敵機の真上からレイアがすれ違い、敵機の腕を切り落としたのだ。

「邪魔」
「ナイスだレイア!」

 そこへ蓮が砲撃をしかけて、敵を遠くへと離した。
 攻撃は防がれてしまったが、レイアを収容する時間を稼げれば十分だった。

「エリ姉、乗せて」

 とりあえず敵との距離が離れたことで、レイアはエリーの上に移動し神器を解除してコクピットに乗り込んできた。

「おかえりレイア。どうだった?」
「たぶん二人の予想通り。戦艦に(とら)われてる人間の脳を使ってこっちの動きを計算して、最適な戦術行動を提言してる。それだけじゃなくて、パイロットの身体能力の拡張もされていて、一万人分くらいの神器の補助を受けてる感じ。私たちが最強の兵器っていうのなら、あれは神器の持つ能力拡張機能を一人の兵士に集めて、最強の兵士を作り出す外部戦闘補助脳みたいなもの。パイロットの拡張されたスペックだけ見れば、半分神器になった蓮兄なみだった」
「相変わらず、全天開拓府の人たちは趣味が悪いなぁ……」

 エリーのうんざりしたような言い方に蓮も同意した。
 全天開拓府にとって、彼ら以外の人は尽く道具でしかない。少し前までならそう思っていたが今より悪化した。人は奴隷でも道具ですらなく、パーツになってしまった。

「でも、やり方は覚えた。蓮兄、力を借りるね」
「へ? どうすれば――っ!?」

 レイアは突然蓮の口を唇で(ふさ)いできた。
 それどころか舌を入れて来て、蓮の頭がピリピリと痺れるような感覚に襲われる。
 突然のキスに蓮は目を白黒させ、エリーは声にならない声で絶叫している。

「レイアちゃん何してんの!?」
「できたっ! これでレイアはもっと強くなれる!」

 だが、レイアは全く気にする様子も無くキスを終えると、もう一度機体の外に飛び出し、黒い彼女の神器を展開した。
 その瞬間、蓮の視界が驚くほどクリアになる。まるで全てを見渡せるかのような不思議な全能感に、戸惑いすら感じるほどだ。

「レイア、俺に何したんだ?」
「ハッキングするついでに、神器による人の遠隔補助を覚えてきた。神器のパイロットは神器から様々な能力の拡張を受けるんだけど、一対一の関係だと思っていたら違った。一対複数でも出来るみたい。だから、その真似をしてレイアの一部を粘膜越しに蓮兄にあげたの。だから今の蓮兄はエリ姉だけじゃなくてレイアの力も使える。蓮兄、レイアを使いこなして」
「レイアの力って、やっぱりこの拡張された視界なのか? 何か後ろまで見える気がするぞ」
「うん。気持ち悪いかも知れないけど、すぐ慣れるよ」
「大事な妹のレイアの力だ。もう慣れたさ」
「蓮兄……ありがと」

 妹が頑張って入れてくれた力だ。拒む理由も怖がる理由も無い。
 蓮は大きく息を吸い込むと、まっすぐ猟犬機の隊長を見据えた。
 こうして今の蓮は、エリーからは超速の反射速度と動体視力を(もら)い、レイアからは全てを見通す目を貰った。
 敵がどれほど強力な補助や戦術プランを受け取ろうが、蓮はエリーたちといる限り負ける気がしなかった。
 もちろん、自己進化プログラムを持っているからではない。姉妹が量産機たちのオリジナルだからでもない。
 蓮が誰よりもエリーとレイアと強く繋がっていることを実感出来て、その二人とともに戦えるからだ。

「これで仕留める! 行くぞエリー! レイア、一緒に戦うぞ!」

 新たな力を手に入れた蓮は、姉妹二機による最強の連携攻撃を開始した。
 まずはエリーの攻撃で刃を振り下ろす。
 その振り下ろした刃を敵機が残った片腕だけで受け止められれば、動きを止めた敵にレイアが別方向から襲いかかる。

「レイア!」
「あはは! すごいよ蓮兄! レイアまた強くなれた!」

 レイアが敵の背後から刃を振るって、もう一本の腕を切り落とす。
 そうなれば、もうあっという間に敵機はエリーとレイアに切り刻まれ、手足を失ったダルマ状態になる。
 最後には、残った胴体の前と後ろから、エリーとレイアに刃を突き立てられ、あっさり真っ二つに引き裂かれてしまった。

「悪魔めええええ!」

 為すすべもなく真っ二つに破壊された猟犬機のパイロットは、捨てゼリフを残してむなしく海上へと落ちていった。
 これで、蓮たちは最強の兵士を乗せた護衛を撃ち落とすことに成功した。
 後は人質となった人たちを救い出して、船を落とせば万事丸く収まる。
 ともすれば、蓮の声にも力が入る。

「これで外の人質は解放した。後はあのでかい船の中にいる人たちだけっ!」

 だが、蓮たちは知らなかった。
 先ほどの戦いすらも全天開拓府にとっては実験の一部でしかなかった。

「なるほど。犬同士では勝てないか。随分やんちゃに育った物だな。だが、私の(かて)にするには十分だ」

 蓮も知っている男の声が天にこだまする。その声をレイアと蓮が同化した時に聞いたことがある。
 その声の主の名をレイアは震える声で口にした。

「マーク=チューリン……」
「私の名はマーク=チューリン! システム《ERIE》を制御するための戦艦メタトロンとクラウドブレインを開発した男だ。《ERIE》を手に入れた盗人め。今日こそ貴様を殺してエリーを私のものにする!」

 こうして突如現れた男・マークから、蓮に対して個人的な宣戦布告がなされた。

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