13.「System Twins ERIE」

作者:坂本一馬

合体という言葉も予想外だったが、蓮も加わることはもっと予想外だった。
 だが、そんな無茶を言い出したエリー本人はものすごいどや顔(・・・)をしている。
 最高のプランだよ。すごいでしょ! 褒めて褒めて! という声が聞こえてきそうな顔だ。

「エリー、ちゃんと説明してくれ」

 エリーが突飛なことを言うときは、一度聞いただけだと無茶なことにしか思えないことが多い。
 でも、やってみると意外と有効なのがエリーの思いつきだったりする。

「あの船がタイプSE-Dの繋がりで合体した神器なら、オリジナルの私とレイアの神器が繋がって合体しても不思議じゃない。それと、さっきあいつが自信満々に言いふらしていたクラウドブレインを蓮が担当すれば、私たちにもきっと出来る。今までやったことなんかないけど! レイアやれるね?」
「あ、なるほど。エリ姉頭良い。実際、今の蓮兄はクラウドブレインと似たようなことしているし、やれそう。それじゃ、システム《ERIE》を同調するよ」

 どこに納得する要素があるんだよ!? と蓮は心の中で盛大につっこんだ。
 そんな心のつっこみも神経を繋げているからだろうか、エリーはさらにボケをかましてくる。

「蓮! 合体の成功率はね単なる目安なんだって! 足りない分は勇気で補うんだよ!」
「こうなりゃ、なるようになれ! 分かったよ承認だ!」
「んでもって、私の場合は二人の愛も追加して、成功率百二十パーセントだ! システム《ERIE》私達を繋げて!」

 そうして、合流したエリーとレイアの神器が手を繋ぐと、二人の神器が解除された時のように、繋いだ手から光の粒を発生させた。
 すると、神器のパーツが光の中へ徐々に消え始めた。
 翼や足が消え、腕も無くなり、機体の速度も徐々に落ちていく。
 合体失敗による神器が崩壊したのか、はたまたシステム《ERIE》のエラーによって神器が消滅したのか。
 どちらか蓮は分からなかったが、ぶつぶつと呟くエリーとレイアの声を蓮はただ信じ続けた。
 妙に安心感があったのは、消えていく神器の光が不思議な暖かさを持っていたからだろうか。
 意味が分からない言葉でも、二人があがいている限り自分の身体を預けて信じることが、二人への力になると直感的に思った。
 だから、蓮もまた願った。

「システム《ERIE》! 俺の想いも持っていけ!」

 その声で、突如光がおさまった。

「蓮兄、レイアにもチョコちょうだい」
「レイア? エリーの中にいるってことは、成功したんだな」
「当たり前。レイアとエリ姉は姉妹だし、蓮兄もいるんだから」

 いつもより広いコクピットにはレイア専用の座席が、蓮の前に新しく備え付けられている。 
 そんなレイアの戦う場所に蓮はチョコレートを差し出すと、レイアは両手で受け取って一気に口の中に押し込んだ。
 その間に蓮が機体を確認すると、大きな変化に驚いた。

「本当に合体したんだな。機体が全然違う」

 機体も一回り大きくなり、十メートルまでに巨大化している。
 それに、重力制御翼もさらに巨大化し、巨大な剣のような姿へと変化した。
 また、白と赤の腕には黒いガントレットがとりつけられた。
 極めつけは、エリーとレイアが合わさったのが良く分かる、赤と黒の二色で染め上げられた甲冑のような胴体への変化だ。
 これが新しいエリーの姿。

「レイア! やれるね!?」
「反応炉同調、重力制御翼完全同調、粒子生産量乗数化、粒子消費量は四乗化。でも、この粒子濃度なら、ゼロシフトによる粒子回収で相殺可能。エリ姉、ゼロシフトはレイアに任せて。周りに浮いてる粒子は全部取り込んで、お腹は()かせない」
「了解! なら、私は全力で攻撃の演算! 蓮トリガーは任せるよ! 私達の全力全開の! ブラックホールクラスター!」

 合体した機体の手の平に粒子が集まり、渦巻く球を作り出す。
 球の中心は黒く、その周りが白く発光し、景色を歪めていた。
 見るからに強そうな光だが、敵が放ってきた太陽のような球に比べれば明らかに見劣りのする大きさだ。
 比較してしまえば、BB弾とバランスボールくらいの差がある。
 それでも、蓮は負ける気がしなかった。

「これが俺とエリーとレイアの力だ!」

 その球を勢いよく粒子の太陽にぶつけると、粒子の塊がエリーの放った小さな球に飲み込まれて、かき消された。
 そして、勢いを保ったまま敵艦に直撃し、大爆発を引き起こす。
 初めての直撃で敵艦に大穴が空いた。
 敵の砲撃の方が攻撃範囲や、面当たりの威力は高かっただろう。
 しかし、粒子の圧縮量はエリーの方が遙かに上だった。
 粒子を超密度で圧縮し、敵の砲撃を貫くほどの貫通力を生み出したのだ。
 しかも、この威力に蓮は心当たりがあった。

「なぁ、この技ってレイアの神器が自爆しようとした時のやつ?」

 エリーとレイアが戦った際、レイアがエリーを自爆で破壊しようとした時の技だ。
 あの時は神器のジェネレーターを暴走させて、粒子を圧縮し、超密度の球体を作って小型のブラックホールを生み出す自爆技だった。
 普通であれば、神器が完全に壊れてしまうほどの自爆技だったのに、今のエリーは野球のボールでも投げるかのように自在に扱っていた。

「正解。いやー、合体すると普通に制御出来て、お姉ちゃんもビックリ」
「ぶっつけ本番なのは知ってたけど、人質巻き込むこと忘れてなかったか?」
「忘れてないよ。だから、途中で爆発させて、表面装甲を(えぐ)り取るだけで済ませたよ」

 あっさり言ってのけたが、言っていること自体はメチャクチャだ。
 だが、これで蓮達はマークの力を追い越した。

「ふざけるな! そんな進化を私は認めない!」

 マークの怒鳴り声とともに、視界を埋め尽くすほどの光の矢が襲いかかってくる。
 数にしたら千本は軽く超える光の矢の雨の中、機体が手をスッと前に出した。
 すると、見えない壁に吸い込まれたかのように、戦艦から放たれた光の矢が、神器の手元で消失した。

「蓮兄、エリ姉、避けないで良い」

 攻撃がエリー担当なら、レイアは防御の担当だ。

「防御フィールドで敵の攻撃を中和しながら、ゼロシフトで粒子を取り込んでる。向こうからご飯をくれるなんてありがたいんだけど、本当に美味しくないから困る。蓮兄、後で美味しいご飯作って」
「ったく、本当にこの二人は……。うん、大盛りでいっぱい作るよ」
「楽しみ。それじゃ、蓮兄、チャージ出来たよ! エリ姉が今度は人質のいない区画をロックオンしたから、もう一発ブラックホールクラスターを撃ち込んで、マークを殺しちゃえ!」
「了解。いっけええええ!」

 六枚の翼からそれぞれ白い槍が放たれて、敵艦に突き刺さり、大爆発をそこら中で巻き起こした。
 圧倒的な火力で一方的に敵を制圧しようと、蓮たちは攻勢に出た。
 今やエリーはマークの持つメタトロンの火力も装甲も全て上回り、メタトロンが手も足も出せないほどの猛攻を加えている。
 しかし、敵艦はなかなか沈まない。
 理由の一つは人質のいる区画を誤爆しないよう、被弾の影響が弱いところしか狙えないこと。そして、もう一つは開けた穴を片っ端から修復されているせいだった。
 とはいえ、攻守が逆転したことで、余裕を失ったマークが荒れ始めた。

「私の進化は終わらない! エリーを手に入れるために私は負ける訳にはいかない!」

 だが、マークが何を言おうと、今この戦場で圧倒的に押しているのは蓮だ。
 それに、マークの声を否定する想いと力は、マークがエリーたちを捕まえようとする想いより強い。

「エリーとレイアに見捨てられた時点で、あんたの進化の幻想はとっくに終わってるんだマーク!」
「まだだ! この私の頭脳があればこの船は落ちない!」
「負け惜しみをっ!」

 これ以上好き勝手やらせる訳にはいかない。
 蓮は人質のいる区画を直接抜き出すために、船にあいた穴へと飛び込もうとした。
 だが、後一歩で突然目の前にあった巨大な神器が光の粒へと変わり、船をすり抜けて海面まで降下してしまう。

「なっ!?」
「これが私の作り出した最高傑作メタトロンの真の姿だ!」
「変形しやがった!?」

 百メートル越えの巨人。
 戦艦状態よりもかなり小さくなっているが、粒子の輝きはより増している。
 身体付きは鎧を思わせる神器ではなく、ローブをきた女性のようなシルエットをしている。
 翼はない。かわりに、金色のヒラヒラした髪の束のようなパーツが頭の上から腰辺りまで伸びている。
 その姿と髪のようなパーツを見て、心なしかエリーに似ていると思わず蓮が感じるような造形だった。
 そんなメタトロンの頭部には白衣を着た男が座っていた。
 少し白髪の混じった中肉中背の中年男性。
 彫りが深く精悍な顔つきだが、全てを見下しているような冷たい目をしていた。

「エリー、あれがマークか?」
「うん、あれが私のお父さんを殺して、レイアを苦しめた張本人」
「姿を(さら)したってことはやられても文句は言えないな。この一撃で消えてもらう!」

 蓮はマークに向けて、迷い無くトリガーを引いた。
 完全に殺すつもりで発射した六本の槍が螺旋(らせん)を描きながら飛翔し、マークに向かって襲いかかる。
 だが、その殺意は攻撃とともに霧散した。

「言っただろう? このメタトロンは落ちないと」

 マークの言葉と共に巨大神器の腕が振るわれると、蓮の放った粒子の槍はあっさりと弾かれ爆発四散した。
 なんと、戦艦形態では貫けた攻撃が、全く効かなかったのだ。
 明らかに神器メタトロンの能力に大きな変化が起きている。

「これは私が作り出した神なのだ。神に至る器でしかない神器に勝てる道理はない」

 そう言って、マークが腕を広げて自信満々に宣告する。
 そして、その宣告を現実にするための暴力が振るわれた。

「そして、これが神の裁きである」

 もはや剣とは言えないほど巨大な光の柱がメタトロンの腕から発生して、蓮たちに向けて振り下ろされたのだ。
 その動きが想像より速く、範囲も広すぎたため、軌道を読み切っていても避けることが出来ず、蓮たちも粒子の刃を展開して受け止める。
 だが、受け止めることはできても、その勢いを押し返すことが出来ず、蓮達は勢いよく海面に弾き飛ばされた。

「エリー、レイア、大丈夫か?」

 思ったより強い衝撃を受けて、即座に蓮が二人を心配するが、エリーもレイアも怪我一つ負っていない。

「な、なんとか。ちょっとビックリしただけ」
「レイアも大丈夫。それと今ので解析出来た。マークがメタトロンを小型化して、神器因子の密度をあげてレイアたちに対抗してきた。あいつの粒子濃度が上がったのも多分そのせい。もともと神器は人型になりやすいのをむりやり戦艦型にしていただけだから、ある意味こっちの姿が本来の姿で、出力が高いのかも」

 神器は人に寄生する生体金属で出来ている。レイアの言う通り、人の形こそが本来の姿であり、最も効率的に活動出来るのだろう。
 それがどれだけの力をほこるのか、蓮には皆目見当つかなかった。

「エリー、ざっくり言えばどんな感じなんだ?」
「粒子量は私達と互角になった。でも、機体の大きさの違いでパワーは圧倒的に向こうが上だね。分かりやすく言えば全く同じ切れ味のある日本刀と、果物ナイフで戦ってる感じ?」
「果物ナイフはやっぱりこっち?」
「だね」
「嫌と言うほど分かったよ」
「でも、諦めてないんでしょ?」
「当たり前だ。マークは絶対に俺たちが倒す! そして地球のみんなを取り返すんだ!」

 とは言ったものの、蓮達とマークの攻防は一進一退が続いた。
 近づけば巨大な粒子の刃で打ち払われて、(ふところ)には飛び込めない。
 中、遠距離戦を取ってみても、蓮の人間離れした反射神経と視覚能力による操縦技術で、マークの反撃を避けながら攻撃出来るが、すぐに修復されてしまう。
 持久戦に持ち込まれたら、燃費の悪いエリーとレイアはジリ貧に陥って負ける。
 何か手段は無いかと蓮が必死に頭を回していると、武雄たちの声が蓮に届いた。

「待たせたな蓮! 受け取れ!」

 その声とともに黒く長細いコンテナが蓮達に向かって飛んでくる。

「まさかっ!」

 もし、コンテナの中身が《アレ》ならば、最高の決定打になる。
 というのも、相手は神を名乗ろうが、神器であることに違いはなく、構成する因子もタイプSE-Dだ。
 神器を封じるための武器は、エリーとレイアとともに作った。
 それを使えばどんな巨体だろうが、神に至った神器だろうが、動きを止められる。

「最高のタイミングに浸食弾と浸食剣だ! エリー、レイア、これで勝てる!」

 蓮の期待通り、コンテナの中には黒い刃とライフルが入っていた。
 新しい二つの武器を瞬時に装備すると、蓮は間髪入れずに浸食弾が装填されたライフルを発射した。

「そんな玩具(おもちゃ)がメタトロンに効くものか!」

 マークの言う通り、普通の弾丸なら貫通どころか、傷一つつけられないだろう。
 だが、この弾丸は神器に特化して作られた特注品だ。
 当たれば、必ず神器を止めるために作られた武器、その真価は単なる破壊力では計れない。

「なにっ!? 何が起きたのだ!? 神器因子が維持できない!?」

 何も知らないマークが驚くのも無理は無い。
 (わず)か数センチの侵食弾がメタトロンの足に小さな穴を空け、メタトロンの脚部が腐り落ちるようにボロボロ崩れ落ち始めたのだ。

「効果は抜群だな。ならこのまま! 全身朽ち果てていけ!」

 これなら倒せる、と蓮はメタトロンの頭部に向けて浸食弾を乱射した。
 その攻撃に対して、一瞬でマークも浸食弾の危険性を察知したのか、的確に腕でガードしている。
 だが、そのせいで、今度はメタトロンの腕が崩壊し始めた。
 一発でも触れれば崩壊はもう止められない。
 それにどこに当たっても損害は広がって行く。
 そのおかげで、当たっていないはずの肩口から、メタトロンの腕がボトリと落ちた。

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く