14.「マトリョーシカ」

作者:坂本一馬

「このまま朽ち果てろ!」

 このまま撃ち込み続ければ、メタトロンの全身を侵食してマークを丸裸に出来る。
 そうなった後は神器の守りを失ったマークに向けて攻撃を当てるだけ。
 ――のはずだった。

「なるほど。神器因子に対する毒か。たしかに強力な兵器だ。だが、対策は立てられる。病巣は切り取れば良い。多細胞生物というのは病巣に(おか)された場所を自殺させ、個体が死なないようにする免疫機構がある。単一で出来ているお前たちには分からないだろう」
「マジかよ!?」

 何と、マークは一瞬で対策を立てて、メタトロンを修復したのだ。
 攻撃が当たってもいない肩から腕が外れたのも、腕そのものをパージして本体を守る盾にしたというわけだ。

「この神は私の意志で動いている。確かに浸食は脅威だが、感染部位を切り捨てれば、侵食は広がらない。今度こそ消えろ!」

 わずかな時間で、浸食弾を当てる前まで回復したメタトロンが、もう一度巨大な光の刃を形成する。
 そのせいで、蓮はいちど侵食弾による攻撃を止めざるをえなかった。
 侵食弾はあくまで神器に作用するもので、エネルギーの塊である粒子にぶつかれば、蒸発させられてしまう。

「ちぃっ、重いな!」

 蓮は咄嗟(とっさ)に武器を機体の背後にしまうと、粒子ブレードでもう一度敵の攻撃を受け止めた。
 一度目と同じように海中に叩きつけられると思ったら、それどころか今度は海底まで叩きつけられた。
 このまま地面の中にまで押し込まれるかと思いきや、その刃はすぐに弱まり、やがて失われた。

「蓮、貸しだぜ」
「ええ、泣いて感謝しても良いのよ?」
「武雄! 美希!」

 なんと、武雄と美希が放った浸食弾がメタトロンの腕を溶かし、窮地から救ってくれたのだ。
 こうして、窮地を脱した蓮が急いで海上に飛び出すと、ちょうどそこに武雄の乗るハルトと美希の乗るフィリアが待っていた。

「ありがとう助かった」
「さて、感謝のついでに教えて貰いたいが大将。あの敵どうやって倒すんだ? この弾も効いているんだけど、すぐ修復しやがる」
「今、この巨大神器を操っている男は、生身で頭のてっぺんでふんぞり返ってる。零距離であいつをぶん殴るしかない」
「また無茶苦茶言ってるな!? って言いたい所だけど、お前が言うならそれしかねぇっぽいな……。どうすれば良い!?」

 神器メタトロンを倒すためには、制御しているマークを撃破してコントロールを奪うこと、もしくは神器を生み出している捕虜たちを解放し、神器の展開をできなくさせてやる二つの方法がある。
 捕虜区画を切り離した方がはるかに速いが、そもそも捕虜区画がどこに移動したのか分からない。そのせいで、間違えて捕虜区画を破壊してしまいました、では話しにならない。
 だから、リスクをとってでも、マークを叩き潰す方を選ばざるをえない。
 ただし、この方法を選ぶと、あのバカみたいにでかい剣をどうにかする方法を考えないといけない。
 そのためにどうすれば良いかを蓮が考えていると、ふとある作戦を思い浮かんだ。

「そう言えば、さっき助けられた時は、やっぱり敵の腕を浸食弾で破壊したんだよな?」
「ん? あぁ、そうだ」

 正面からはメタトロンの粒子刃のせいで、浸食弾による攻撃が出来なくても、刃の効果範囲外である横からなら当てられる。
 それに一瞬ではあるけれど、エリーとレイアならブレードを正面から受け止めることは出来る。
 その二つの条件が揃えば、かなり無茶をしてマークのもとに辿り着くことは出来るのではないか。

「蓮の考えてること分かったかも。お姉ちゃんはやれるよ」
「うん、レイアもいるし、数秒ならもたせる」

 正面から蓮達が突っ込み、メタトロンの巨大な刃を受け止める。
 その隙に、横から武雄と美希が浸食弾を見舞ってメタトロンの腕を破壊する。
 それを繰り返し、両腕の再生中にマークのもとへ取り付く、という作戦だ。
 実際かなり無茶をすることにはなるが、決断は早かった。

「武雄、美希、頼めるか?」
「頼めるかって、お前の方がよっぽどヤバイだろ!?」
「そうよ。自分たちがなに言ってるか分かってるの!?」

 武雄と美希が戸惑うのも無理はない。あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎる作戦だ。
 それでも、全員を救うための方法はそれ以外無かった。
 果物ナイフ一本で日本刀を振り回す敵に戦いを挑むようなものだが、負ける気はさらさらない。何故なら、蓮は三人で戦えるのだから。

「分かってる。でも、俺とエリーとレイアにしかこんなこと出来ないから、俺たちがやってみせる」

 覚悟はとっくに決めている。
 蓮は落ち着いた様子でもう一度武雄と美希に頼むと、粒子ブレードを展開しメタトロンの頭部に向けて飛び立った。
 その蓮の動きに応じて、武雄と美希が左右に分かれる。

「ちっ! カッコ付けやがって! やるぞ美希! 如月トリオを送り届けるんだ!」
「言われなくたってやってみせるわよ!」

 三機が三角形の陣形になるように、蓮がメタトロンへと突撃すると予想通り巨大な光が襲いかかってきた。

「自ら死にに来るか!」
「エリー、レイア、最大出力!」

 蓮たちの刃とマークの刃が衝突し、蓮たちが(わず)かに押し戻される。

「しょせん二体が融合しただけの神器では、私には届かん!」
「その傲慢さと視野の狭さがお前の敗因だ!」

 そう蓮が叫んだ途端、目の前の光の柱が真っ二つに裂ける。

「いけっ! 如月トリオ! お前らの代わりに全弾叩き込んでやったぞ!」
「行って下さい! あなたたちなら絶対にやれます!」

 武雄とハルトの声に後押しされながら、裂かれた光の柱のど真ん中を突っ切ると、二本目の刃が待っていた。だが、その刃も蓮たちが受け止める前に消えてしまった。
 そういうところはさすが砲撃戦ペアだと思ってしまう。

「砲撃戦なら任せてよね。後は任せたわよ蓮! エリー! レイア!」
「制圧射撃は超得意。攻撃を受け止める分のエネルギー残せたんだから、後は決めて」

 美希とフィリアが作ってくれた道の向こうには、ハッキリと白衣の男、マークが映っている。
 もう遮るものはない。
 後はただ勢いに任せて、叩き潰すだけだ。
 エリーとレイアもトドメを刺そうとする蓮の後押しをするように叫んだ。

「蓮! 神器の負荷は考えないで!」
「蓮兄! これで終わらせて!」

 そして、最後に蓮が吼えた。

「うおおおおおお!」

 誰一人欠けても次の攻撃は成功しなかっただろう。
 武雄と美希は誰よりも助けたかった兄をおいてでも、蓮についてくれた。
 ハルトとフィリアもメタトロンという圧倒的に性能差がある相手にも、真正面から向き合う勇気を見せた。
 この場に見せないモーテルも蓮たちのために、戦う場を整備してくれた。
 そして、蓮が繋がっている機体は、最強の姉妹がメタトロンを打ち倒すために導き出した新しい神器の姿だ。
 この一撃は友と、家族と、大事な人の作ってくれた一撃!

「終わりだ! マーク!」

 蓮が叫ぶと、エリー機が光の翼を羽ばたかせ、巨人の頭部目がけて加速する。
 頭部のマークに向けて伸ばしたエリー機の手の中には、小型のブラックホールを生み出す粒子の塊が握られている。
 その塊を発射しようと蓮がトリガーに手をかけた。
 その時だった。
 発射してもいないのに突如、手の平の上から粒子の塊が消え、スピードが落ちた。

「まだだ! 私の神はまだ倒れん!」

 マークの言葉通り、メタトロンの攻撃によって、蓮達の攻撃と動きが止められたのだ。
 メタトロンの平面的な装甲が突如割れ、銀色の腕のような物が中から飛び出し、機体の足を掴んで動きを止めてきた。
 しかも、単純に引っ張るだけでなく、機体の出力が吸われているのか、スラスターから放出される光の翼が消えていく。
 その異常事態に気付いたレイアが蓮に振り向いて叫んだ。

「蓮兄すぐあの手を切り落として! 粒子が吸い取られている! 出力が落ちてるよ!」
「ちっ! ここまで来て隠し球か!」

 蓮は瞬時に浸食剣に持ち替えると、生えてきた腕を切り払いながら前進を続けた。
しかし、前からは触手のように無数の腕が生えて、次々に襲いかかってきている。

「しつこいっ!」

 蓮がうっとうしさに負けてつい叫んだ。
 それにマークまでの距離はもう三十メートルもないのに、なかなか進めなくなった苛立ちもある。
 蓮を止めようとする銀の腕の数が非常に多く、切り払った目の前から新しい手が襲ってくるせいだ。

「でも、どんなに数を持ってこようが、お前には届く!」

 どれだけ蓮たちの足を絡め取ろうが、侵食剣がある限りマークは蓮たちを捕まえきれない。

「だろうな。だが、これならどうだ?」

 マークも学習したのか、すぐに対応を変えてくる。
 なんと、蓮が銀の腕を切り払った瞬間、突然銀の腕が爆発して浸食剣が折られたのだ。

「しまった!? 自爆して無理矢理折ってきた!?」
「落ち着いて蓮。なりふり構ってられないのはお互いさまだから、自爆を使うくらいマークも追い込まれてる! 止まらなければ勝てる!」
「あぁ! つっこむぞ! 防御フィールド全開!」

 切り払うための剣は、すでに実体剣も粒子ブレードも封じられた。
 遠距離砲撃も銀の腕によって食い止められる。
ならば自分自身を弾丸として送り込み、マークを直接殴るのみ。
 次の一手として蓮が打ったのは、防御フィールドを展開して強引につっこむことだった。
 その目論見(もくろみ)どおり速度は殺されたものの、触手を弾き飛ばしながら蓮たちはマークの元へと近づいていく。
 残り十メートル。この距離なら手を伸ばせば拳が届く。

「届けええええ!」

 蓮が引き絞った腕を解き放ち、真っ直ぐ拳を打ち出す。
 だが、その拳はマークの五メートルほど手前で止められた。

「誘い込んだのだよ。今までの拘束腕は全て(おとり)だ」

 突如現れた数十本の腕が一斉に左右からエリー機を掴み、五本の腕がマークの前で拳を受け止めた。

「エリ姉、ダメ。このままじゃ動けない」
「くぅー……! 本当だね。このままじゃ、エネルギーを吸い取られて気絶……しそう」

 窮地を脱しようと、強引に加速して振り切ろうとしてみたが、粒子放出が完全に止まり、全く身動きが取れなくなっている。

「私の勝ちだ。さぁ、エリー、レイア、そんなつまらない下等人類の元から離れ、私のもとで新しい進化を辿(たど)ろう」

 そう言ってマークが勝ち誇った表情で両手を広げた。
 我が子か恋人でも抱きしめようとする腕の広げ方をして、まるでエリー達を受け入れると言ったような態度を取っている。
 マークにはそれぐらいの余裕を見せるだけの力がある。
そのことを蓮も認めざるを得なかった。

「マーク、あんたは強いよ。んで多分、すごく賢いんだろうな」
「ハハハ。今更命乞いをしようとも、貴様だけは許さんよ。貴様は私のエリーに手を出したのだからな。神器の材料にすらしたくもない。完全に存在を消滅させねば気が済まない」
「あぁ、だから、その傲慢(ごうまん)さがお前の敗因だって言ったんだ!」

 蓮の声で、動かなくなったはずのエリーの機体から、赤くて白い神器が拘束していた触手を振りほどいて飛び出した。

「バカな!? 拘束していたはず!? なっ!? レイア貴様あああああ! この父を裏切るかああああああ!」

 全く動かなくなったエリーが動くようになった理由は、もう一人の黒い神器が触手の中から彼女を送り出したからだ。

「行って! 蓮兄! エリ姉!」

 蓮がマークとの会話で時間を稼いでいる間に、レイアとエリーは合体を解き、エネルギーを受け渡ししていた。
 そして、合体を解いたレイアがエリーを拘束腕の外へと押し出し、マークの拘束から解放したのだ。
 エリーに残されたエネルギーでは粒子砲を撃つことも、粒子の刃で切ることも出来ない。
 チョコレートを食べて補給する時間もない。
 だから、残された全ての力を、マークに向かって飛ぶことに注ぎ込んだ。
 マークは所詮ただの人間、神器の拳を入れればたった一撃で倒せる。

「エリー! 俺を信じてくれよ!」
「分かってる! 信じてるよ蓮!」

 マークとの距離、残り一メートル。
 蓮の操縦技術で触手をすり抜け、エリーの拳がマークに向かって放たれた。
 そして、当たれば間違い無く潰れる速度で振り下ろされたエリーの拳がマークに迫り、金属同士がぶつかる激しい音が発生した。

「やった! って、言っちゃうと、大概やってないってフラグだけど、今回は手応えありだよ」

 エリーが冗談めかして台詞を口にする。
 でも、明確な衝突音と衝撃が神器に伝わったのだ。マークに当たっていない訳がない。

「今のは危なかったな」

 そのはずなのに、マークは生きていた。

「それと私は傲慢ではないよ」
「嘘でしょ!?」

 エリーが信じられないような物を見て、驚きの声をあげる。

「自分の高い能力を信頼し、自信を持っているだけだ」

 ギリギリで止められた。残り数センチと言った所で、また生えてきた触手に拳が包まれ受け止められたのだ。
 これでレイアだけでなく、エリーも動けなくなった。
 ハルトとフィリアはこの場にいない。
 今、ここで唯一神器を操れるのはマークのみとなった。

「おままごとはここまでだ。さぁ、子供は家に帰る時間だよエリー。君の遊び相手はもうこれで誰も残っていないのだから」

 マークの言う通り、もはやマークを止められる神器はいない。
 神を目指して作られた最強の姉妹ですら、新たな神には(かな)わないと言わんばかりの口調だ。
 だが、敗北を喫したはずのエリーは神器の中で笑っていた。

「負けたの……なんてね! 私は信じてるんだ。私の友達と、家族と、私の恋人を!」

 先に捕まったレイアですらまだ諦めておらず、マークを挑発する。

「蓮兄はすごいんだよ? だって、レイアを止めたのはエリ姉じゃなくて、蓮兄なんだから!」

 エリーは絡め取られたのとは反対側の腕を振り被ると、手の中から蓮をマークに向かって投げつけた。

「バカな!? 生身だと!?」

 マークが蓮に気付き、目を大きく見開いて驚いた。
 そのマークの目を見て、蓮は自分の想定通りに作戦が進んだことを確信した。
 蓮の考えた作戦とは、万が一エリーの攻撃が届かなければ、蓮が飛び出してトドメを刺すことだった。エリーしか見ていないマークなら奇襲は成功する。
 その作戦を蓮は神器に繋いだ神経からエリーに伝えたのだ。
 生身で危険な戦場に飛び出すが、必ず生きて帰るから。
 その覚悟を蓮はエリーに信じてくれと頼んだ。そして、エリーは蓮の覚悟に応えて送り出した。
 信じてくれ、信じてる、この短いやりとりで、蓮とエリーはお互いに覚悟を決められるほど通じ合っていた。だからこそ出来た戦術を、マークはきっと事情を知っても理解出来ないだろう。
 それに、人間の身体だったら間違い無くマークに衝突した瞬間にミンチになるほどの勢いで投げられた。身体の一部が神器化した蓮だからこそ衝撃に耐えられるが、マークは蓮が神器化していることを知らない。
 だからこそ生身の奇襲が効く。蓮はそこまで計算していた。
 普通の人間の身で、神だの進化だのを望んだマークには避けきれる攻撃ではないと信じて。

「蓮! やっちゃえ!」
「蓮兄!」

 マークに捕まってもなお、蓮を信じてくれるエリーとレイアの声に後押しされる形で蓮がマークに向かって飛び込み、拳を放つ。

「これで終わりだああああ!」
「神の戦いに生身で立ち向かおうなど愚か者め!」

 まるで、弾丸のような勢いでせまる蓮だったが、蓮の身体はマークの目の前に現れた新たな拳に握りつぶされた。

「蓮!?」
「私の周りに何か迫ろう物なら、自動で防衛機構が働くのだ。さぁ、愚かな人間は消えた! エリー! 私の元に戻れ!」
「蓮! 返事してよ蓮!」

 エリーの絶叫が響く。
 いくら神器化していても蓮は生身の方が多いため、金属の塊に押しつぶされたらひとたまりもない。
 普通なら死んでもおかしくない状況にエリーは涙を流しながら、蓮の名前を叫んだ。

「蓮兄! 嘘だよね!? ご飯いっぱい作ってくれるんじゃなかったの!?」

 エリーの絶叫に遅れて、レイアも蓮の名を叫ぶ。
 だが、蓮からの返事は返ってこない。
 その声が武雄たちにも届き、状況を知らない武雄と美希が酷く混乱させられていた。

「蓮がどうした!? おい! エリーちゃん! レイアちゃん! どっちでもいい! 蓮はどうした!? コクピットにいねえじゃねぇか!?」
「ちょ、ちょっと、なんでそんな声出してるの!? まさかさっき飛び出して消えた生体反応って!?」
「おい、美希、それってまさか蓮の奴、外に引っ張り出されて死んだのか!?」

 蓮が死んだ。
 その推測を武雄が口にした途端、エリーとレイアがもう一度叫んだ。

「蓮!」
「蓮兄!」

 そんな姉妹の呼びかけに応えるかのように、蓮を掴んだ手が砕け散った。

「お前みたいな奴にエリーとレイアを渡すものか!」

 そして、蓮が砕けた拳の中から飛び出し、マークの目の前まで肉迫する。

「バカな!? ただの人間が!? 私のメタトロンを破っただと!?」
妄執(もうしゅう)と一緒に沈め! マーク!」
「ぐおっ!? ぐがっ!?」

 蓮がマークの頬に向けて拳を思いっきり振り抜くと、マークが空中を一回転、地面を三回転しながら吹き飛んでいく。
 その一撃でマークの意識が途切れたのか、エリーとレイアを拘束していた神器が解除され、足場も光の粒となって消えていった。
 そして、蓮もその光の中へと放り出された。



「うわあああ!? 落ちてる落ちてる!?」
「蓮! 蓮!」

 だが、落下する蓮を、すぐさまエリーがキャッチして自身のコクピットの中に保護した。

「蓮! 良かった生きてる! 生きてるよー!」

 そして、エリーは泣きながら一目散に蓮に抱きついた。

「うわわっ!? エリー泣くなよ!? って、そうだよな。ごめん。心配かけて」
「本当だよ! バカ! もう、心配で心配でどうしようかと思ったよ! でも、どうやってあの触手から抜け出したの?」
「あぁ、これだよ」

 蓮は握りしめていた拳を開くと、中から白い猫と黒い猫の首飾りが現れた。
 エリーとレイアがお守り代わりに作ったアクセサリーだ。

「あの銀色の手が触れた瞬間に、敵の動きが止まった。そのとき思ったんだ。きっとこいつ(・・・)が浸食弾と同じ素材でできてるからだと。さすがにサイズが小さいからか、壁が壊れるまでに時間かかったけどさ」

 蓮が自分には効かないと思ったのは、そもそも蓮が完全な神器では無く半分(ひと)だったからというのもある。
しかし一番の理由は、エリーとレイアが自分のために作ったアクセサリーが、自分を浸食することは無いと蓮が信じたからだ。

「蓮兄ー!」
「うわわ! レイア!?」

 さらに、コクピットの穴からレイアが中に飛び込み、蓮の背中にしがみついてきた。

「蓮兄、生きてる。生きてるよね? 良かった!」
「あぁ、ただいま。レイア」
「おかえり蓮兄。ありがとう。マークを倒してくれて」

 ぎゅっと力強くレイアが蓮に抱きついてくる。
 その力強さが、蓮に二人の呪縛が解けたことを伝えてくれる気がした。

「ところで蓮兄、エリ姉とキスするの?」
「へっ!?」
「だって、マークに勝ったら、キスしたいって言ってたよ。好きなだけするって言ったよ。エリ姉としないのならレイアとする?」
「どうしてそうなる!?」

 全く理屈は通っていないが、レイアはどうするのー? どうするのー? と繰り返し蓮に尋ねた。
 もちろん蓮の気持ちはとっくに決まっている。決まっているのだが――。

「いや……、その……したいけどさ! 雰囲気とかあるから!?」

 そして、キスを受けてくれるエリーの方はというと。

「……いいよ?」

 何故かエリーはいつものように押す訳ではなく、恥ずかしそうに手をもじもじしながら、顔を赤く染め、上目遣いで蓮に尋ねてきている。
 いつもからかってくる癖に、珍しく恥ずかしがっていたエリーの表情に蓮の心は大きく揺さぶられた。

 蓮のかわいい顔が見たいから、という理由で散々からかってくる理由が良く分かるほど、蓮は今のエリーがやけにかわいく見えた。
 それこそ、この顔を見られるのならからかっても良いと思えるほどだ。
 だから、もうちょっと長い間その顔を見るために――。

「エリー、大好きだよ」

 わざと声をかけて間を作った。
 すると、エリーは真っ赤な顔のまま、ぎゅっと目を閉じて止まった。
 その無言の答えの裏に、全てを受け入れるという意思が見えた気がした。
 そんなエリーを蓮は両腕で優しく抱きしめると、自分の唇を静かにエリーの唇に重ねた。
 恋人になって初めてしたキスも、何だかチョコレートの甘い香りがしていた。

作品応援ボタン(1日1回)応援コメントを書く