15.エピローグ「新しい今と未来」

作者:坂本一馬

エピローグ

 人工島のとある病院のとある病室に、(れん)たちはお見舞いにやってきた。
 メタトロン崩壊後、武雄(たけお)美希(みき)たちが捕虜区画から人質を回収したのだが、脳を酷使されたせいかひどく衰弱していたため、多くの人が入院させられていた。
 その中には蓮の両親もいて、蓮はエリーとレイアを連れて十年ぶりの再会を果たしていた。

「久しぶり。父さん、母さん」

 病室に入り、挨拶(あいさつ)をするとベッドで横になっていた夫婦が蓮に顔を向けた。
 随分とやつれて、歳をとり、白髪も増えたが、記憶や写真で見た両親の面影が残っている。

「蓮……なんだな」
「蓮……あぁ、良かった。生きていたのね」

 震えながらも手を伸ばす両親に、蓮は駆け寄って二人の手を握りしめた。

「うん、やっとみんなを取り戻せた……。おかえり。父さん母さん」
「取り戻せた? どういうことだい蓮?」

 両親は不思議そうに首を傾げて蓮に尋ねた。
 普通ならみんな戻ってきた。と言うべき所だ。だから、取り戻せたという言葉に疑問を感じたのだろう。
 我が子が自分たちを助けるために戦っていたとは夢にも思ってもいないはずだ。
 両親の問いかけに対して蓮は照れくさそうに頬をかくと、後ろで待っていたエリーとレイアを自分の前に出した。

「こっちの小さい方がレイア。俺の妹。んで、こっちの大きい方がエリー、俺の姉。二人は神器でさ。俺はこの二人といっしょに戦って、父さんたちを助けたんだ」
「初めまして。レイアだよ。うーん、もうちょっと石の前で練習すれば良かったかな? 何言えばいいかわからないや。あっ! 思い出した! レイアね、蓮兄に押し倒されて妹になったの! 責任とってもらったんだ!」
「ちょっ!? だから、誤解を生むようなこと言わないで!?」
 
レイアの言葉に父さんも母さんも困惑して固まってしまった。
 その様子をエリーはクスクスと笑うと、居ずまいを(ただ)して頭を下げた。

「初めまして。エリーです。蓮には大変お世話になっています」

 あまりにも似合わない丁寧なエリーの応対に、蓮は思わず笑い出しそうになったが、必死にこらえた。
 だって、ここで笑ってエリーの評価を下げても困ることしかない。
 快くエリーのことを受け入れて(もら)わないと、困ることがいっぱいある。

「えっと、蓮……お母さん何のことか良く分からないのだけれど、お母さんはあなたしか産んでいないわよ?」
「うん、俺が孤児になりかけたのを拾ってくれた義理の家族の二人なんだ。だから、血は繋がってない。それでも、いっしょに生きてきた大事な家族なんだ」

 蓮の父も母も蓮の言葉を上手く飲み込めないのか、答えに困っている様子だった。
 でも、これから伝えることはきっと妹だの、姉だの、よりもっと驚くし、戸惑うことになる。

「それと、エリーは俺の恋人」
「蓮に……恋人?」

 簡単には飲み込めないのか、父が聞き返した。
 その問いに蓮は穏やかな笑みで小さく頷く。

「うん。これまでずっと家族として一緒に過ごしてたんだけど、今は恋人」

 そして、いつか姉と弟ではない、家族になる予定の相手。

「ごめんね。父さん、母さん、驚かして。どうしても紹介しておきたかったんだ。大事な人だから」

 ぽかんとした両親は、何が起きたのかやはり分からないようで、無言のまま時が過ぎていく。
 だが、その静寂はからかい気味な口調の男と、気の強そうな女によって破られた。

「なんだよ大将? いつからそんな関係になったんだ?」
「本当に今更よねー。前々から恋人じゃない方がおかしいくらい、イチャイチャしていたし。恋人になってもそんな変わらない気もするけど。結婚しても変わらずにそのまんまなんじゃないの?」

 武雄と美希が花束を持って病室にやってきくる。拓也さんのついでだろう。美希は再会でかなり泣いたのか目元が随分腫れていた。
 そして、そんな二人の後に続くのは、相棒の神器たち。

「フフ、本当に羨ましいお二人です。同性同士だとそういうことは難しいですから。ね、フィリアさん」
「同性でも問題ない。美希は良いお姉ちゃん。おめでとうエリー、蓮」
「ふむ。なら僕も今度から武雄君を兄上とでも呼んでみましょうか。意外と悪くないかもしれません」

 ハルトとフィリアが微笑みを讃えて手を叩いていた。

「蓮、みんなあなたのお友達? もう一度最初から説明してもらえるかしら?」
「うん。母さん、紹介するよ。俺の友達と家族と恋人を」

 全てを取り戻した後にすること、それは全てを繋げることだった。
 途切れた(つな)がりを、今度は二度と分かれないように結ぶために、たくさんの想いとともに、蓮はそれまでの出来事をみんなと語り合うのであった。



 地球人を取り戻す作戦が終わり、全天開拓府も最大戦力を失ったことで、大きな戦いは無くなった。
 つかの間の平和を取り戻した蓮とエリーは二人が初めて出会った日に、二人きりで出会った公園へと立ち寄った。
 そこは十年前の戦いが嘘のように、子供たちがブランコをこぎ、走り回り、砂場で何かを作っている。
 何かに(おび)える様子は微塵(みじん)も感じられない。明るい笑顔と笑い声がこだましていた。
 そんな公園のベンチで蓮とエリーは、肩が触れあうほどの距離感で座り、指を絡ませるように手を重ねていた。
 もう恋人としてある程度の時間が経ち、これぐらいなら恥ずかしさも消えている。

「レイアが気を利かせてくれたおかげで、今日は蓮と初めて二人きりでデートだね」
「ずっと三人であちこち行っていたからなぁ。言われてみれば、二人きりでデートするのって、付き合って以来初めてだったんだな」
「そうだよ。恋人になる前はそれが当たり前だったのに、何か今では特別に感じるって不思議だよね」

 蓮の問いにエリーは(うなず)くと、遠い目をしながら公園のブランコに視線を送っていた。

「ねぇ、蓮」
「なに? エリー」
「前も言ったけど、私はここで蓮に会えて、本当に良かった。蓮とは全然違う生まれ方をしたけど、家族になれて、今は恋人として蓮と一緒にいられて、生まれて来て本当に良かったと思う。きっかけはチョコレートっていう今思えば変な出会いなのにね」

 エリーはそこで一旦言葉を切ると、大きく息を吸い込んだ。そして、わずかに恥ずかしそうに頬を染めながら、蓮を上目遣いで見つめると――。

「蓮、大好きだよ」
「俺もエリーのことが大好きだ、って、恥ずかしいなこれ!」
「うん。恥ずかしいね。でも、この場所に来たら、ちゃんと言葉で言いたかったから。ふふ、お姉ちゃんとしても恋人としても、これからよろしくね」
「俺の方こそよろしく。また来年同じ日に、ここに来よう。その次の年も、ずっと」

 そして、自分たちの勝ち取った平和を楽しむのだ。

「あはは。子供が出来たら連れてこないとね」
「っ!? げほげほっ!?」
「あはは。ビックリ大成功。可愛い顔が見られて、私は大満足です」

 思わずむせた蓮の背中を、エリーはさすりながら笑っている。

「そう言えば、私を恋人にした時って、私を押し倒したから恋人にしたって蓮は言っていたけど、次私を押し倒したらお嫁さんにしてくれるのかな? 既成事実ってやつだよね?」
「だから、あれは元々エリーの言った冗談だろ? っていうか、そのエリーのからかい癖は恋人になっても変わらないんだな! いつまでそのネタでいじってくるのさ?」
「ふふ、私は蓮のお姉ちゃんで恋人だからね。ずっと一緒にいたんだから、蓮が可愛い反応する方法をたくさん知っているのだ。それに、お嫁さんになってから弄るネタを今のうちに増やしておかないと」
「ったく、最近さらに拍車がかかってる気がするんだけど」
「えへへー、蓮がかわいいせいだよ」

 美希の言った通り、恋人になってもあんまり二人の関係性は変わらなかった。
 でも、一つだけ変わったことがあるとすれば、ほんの些細(ささい)なことだけれど、それは――。

「エリー、愛してる」
「――っ!? うぅ、蓮、不意打ちは卑怯だよ。嬉しいけど……なんかすっごい恥ずかしい」
「俺だってずっと一緒にいて、ドキドキさせられたんだから、これぐらいはね」

 蓮もエリーを正面から恥ずかしがらせて、可愛い顔を見ることが出来るようになったことだ。
 それに、そんなお互いの顔を見れば、自然と二人の顔は近づいていき、唇をゆっくりと重ねた。
 断ち切れない絆、それこそが神器の力。この二人には誰も敵わない。天を征した半神半人のコンビなのだから。

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