第四章 関東邪教大戦 其の三

作者:設楽英一

第四章 関東邪教大戦 其の三

「わざわざ西暦使ってるってことは、西欧の人間の仕業? でもなんで悪魔崇拝するヤツが、悪魔の親玉の命を狙うんだ?」
「ワルプルギスの夜に悪魔召喚したのは間違いないけど、きっと目的が別なんだお。そもそも猫を生贄にしたって“七つの大罪”は呼び出されないのねん。むしろ、さたんにバレたらそこが地獄になるお」
「じゃあ、これは全然別の事件ってこと?」
「ばっきーが美作国で起きたって言ったお。童子切安綱は、津山藩松平家に代々置いてあって、その津山藩の領地が美作国なのねん」

 その自分の言葉に、ベルフェゴールがはたと気づきます。
「あの童子切安綱、すっごい妖気を放ってたお。鬼を斬った太刀なんだから、妖気くらい放つかなって思ってたけど、いま思い返せば、なんか禍々しい感じがしたのねん。もしかして、呼び出した悪魔を生贄にして、童子切安綱に魔性を帯びさせたとか?」

 今度はその言葉に、ラファエルの思考が奔り始めます。
「悪魔召喚は、魔王を斬る剣を造るため……。魔王を斬るために、聖剣ではなく魔剣を造る意味……。聖剣で刺せば、魔物は消滅する。魔剣で刺せば、魔物は刺した者の一族郎党まで祟る。
 徳川将軍家の者が刺せば、魔物の祟りが徳川を滅ぼす……これが狙いか!?」
「そのための、わたしは生贄ってこと~!? ひどいお!」
 握り拳を上下にぶんぶん振って、魔王が理不尽さに抗議します。

「でも、将軍継承争いに敗れたとはいえ徳川御三卿。この国のトップクラスの人間が、自滅覚悟で徳川を滅ぼしたりする?」
「権中納言も駒にされてるだけじゃないのん? 徳川を滅ぼして得をするのは、外様大名、幕藩体制に不満を抱く朝廷、あるいはこの国じゃない――」
「西暦を使う人間! 魔王を生贄に、徳川政権を崩壊させて内乱を誘発、その隙をついて日本の植民地化を狙う!」

 ベルフェゴールとラファエルは目を見合わせ、自分たちの推理がまんざら的外れではないかもしれないと頷き合いました。
 その時――突如屋敷に人が雪崩込みました。盗賊避けの結界に弾かれていないところを見ると、身元は確かな者のようです。

「火付盗賊改である! 貴殿には先の火付盗賊改方長官、長谷川宣以(のぶため)殺害の嫌疑が掛けられている! 大人しく御同道願いたい!」
 ベルフェゴールは、顔馴染の同心たちが沈痛な面持ちで奥座敷まで踏み込んできたのを、静かに出迎えました。
「ちょっと! ベルフェがそんなことするわけないじゃん!」
「ラファえもん。みんなわかってるお。わかってるけど、わたしを捕まえないといけないんだお」
 火盗改選りすぐりの腕利きが集められ、全員が死ぬ覚悟で来ていることが目を見てわかったベルフェゴールは、素直に立ち上がって身を差し出しました。
「ラファえもん、あとは頼むお」

 同心たちが去り、踏み荒らされた奥座敷に、ラファエルと馬琴だけが取り残されました。
「馬琴。残念ながらアンタもこの件に関わったせいで、いつ呪殺されてもおかしくない状況になったと考えたほうがいい」
「あ…あたしは何も知りゃあしませんが……!?」
「それでも向こうは見逃しちゃくれないよ。アタシがついて護ってやりたいけど、急いで行かなきゃならないところがある。アンタ、ベルフェの屋形船にしばらく隠れてな。あの船内は天使と魔王の結界で護られてるから、並みのヤツじゃ手は出せない。食事は座敷童子が面倒見てくれるよ」

 清水門外の火付盗賊改方役宅に連行されたベルフェゴールは、そのまま牢屋に入れられ、腕利きの同心たちが見張りに就きました。
 ただ、食事も悪くなく、やがてベルフェゴールもいつものようにごろごろと寛ぎ始めます。
 夜半、牢屋に筆頭与力の佐島が現れ、見張りの同心たちに目配せをすると、同心たちが一旦その場を離れました。

「退屈様。此度は御不自由な想いをさせ、誠に申し訳ござりませぬ。与力、同心の中に、退屈様がお頭を殺めたなどと思っている者はおりませぬ」
「さじー、わたしならだいじょぶだお」
「現在お頭を慕っていた密偵たちが、我も我もと協力を願い出て、真の下手人を捜しております。退屈様の身柄引き渡しは、万が一にも人違いなど無きよう火盗改で念入りに調べてからという名目で、我らがしばしお預かりします」
「そしたら、密偵には最近起こった変わった話や気味の悪い話を集めてほしいのねん。遠方はラファえもんが調べるから、近場でいいお」
「わかり申した」
 やがて続々と、関八州の各地で起きている怪異の情報が入ってきました。
 中でも衝撃的だったのが、日光の鬼門が破られたとの知らせです。


【其の四は10月26日更新予定です】

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