番外編1 ふるさと納税

作者:中田かなた

番外編① ふるさと納税

          1

 ぼくの住む月熊町では、年に一度町全体の祭りが行われる。お祭りといっても大したものではなく、地域の特産品がふるまわれたり、自治会が出し物をしたりする程度のごく小規模のものだ。こう言ってはなんだけど、割と子供騙しの感がある。そのため、訪れる人は参加者である自治体関係者と親子連れが多い。
 ぼくも普段ならこの祭りに行ったりはしないのだけれど、今回だけは別だ。
 何故なら、租税さんに呼び出されたからだ。何でも、フリーマーケットコーナーにて、古本を大量に出品する人が毎年いるらしく、その古本を安く買い叩いてきて欲しいとのことだ。それなら自分で行けばいいと思うのだけれど、租税さんはどうしても外せない用事があるらしく、ぼくは一人でこの『つきくま祭り』の会場へと足を運んでいた。

 会場ではステージを中心に、様々な団体がテントの下に出し物を用意していた。
 その中に、ひときわ目立つ存在がいた。
 それこそが『クマえもん』。二~三頭身の茶色い熊のキャラクターだ。僕たちの住む月熊町のゆるキャラとして公式に認定されていて、比較的毒のあるセリフをツイッターでつぶやくことで知られている。ちなみにはちみつ好きで「はちみつください」が口癖という設定まである。今日は、月熊町の魅力をアピールする広報活動をしているようだ。

「みんな~、月熊町をよろしくね~」

 着ぐるみのクマえもんは、器用に月熊町のパンフレットを配っている。
 ぼくもパンフレットを受け取り、軽く目を通す。その中に一つ、気になる箇所があった。

『月熊町への《ふるさと納税》をお待ちしています!
 一万円以上ご寄付いただいた方には、お礼の品として『はちみつ』を差し上げます!』

「ふるさと納税?」

 ぼくが呟いた言葉に、クマえもんがピクリと反応する。
 クマえもんは何かを伝えたそうに、こちらを伺っている。

「クマえもん、どうしたのかな~」

 女性職員にやんわりと注意され、クマえもんは再び子ども達に向かって手を振り、愛想を振りまき始めた。それにしても、さっきのクマえもんの反応には、妙な既視感があった。ふるさと納税という単語に反応したのも、ぼくの良く知る人物なら自然な反応だ。
 ここは一つ、試してみることにしよう。
 ぼくは職員さんに向かって、質問をした。

「ふるさと納税って、特産品のアピールのためにやっているんですか?」

 もしもクマえもんの中身がぼくの知っている人なら、この質問に対して黙って入られないはず。そう考え、クマえもんを横目で見ると――。

「それは違うわ!」

 ゆるキャラの中からゆるキャラが出てきた!
 いつの間にか、クマえもんの頭部が持ち上げられ、中から租税さんが顔を出していた。
 クマえもんの周りに集まった子供たちは呆然としている。子供達だけじゃない。クマえもんと一緒に来ていた月熊町役場の職員だって「この人は何をしているんだ」といった顔でクマえもん、いや、租税さんを見ていた。
 だけど、職員は即座に正気を取り戻すと、クマえもんの頭を叩き落し、再び胴体にくっつけた。そして「職務放棄によるバイト代の減額」という魔法の言葉で租税さんを大人しくさせた。

「そ、租税さん?」
「誰のことかな? ぼくはクマえもんだよ」
「ああ、はい。そうですね」

 租税さんがそういうのなら、そういうことにしておこう。
 それにしても、どうしても外せない用事というのはこのことだったのか。確かに、着ぐるみというのは身長が低い女性が入ることが多いらしいから、座敷童のような租税さんにはぴったりの仕事だ。

「それはそうと、さっきの発言はどういうことなんですか? ふるさと納税は地域の特産品をたくさんの人にアピールするためのものじゃないですか?」
「うぷぷ……。甘いなぁ、認識が甘すぎるよ。ふるさと納税は断じてそんな甘いものじゃないんだよ。あれは、砂糖菓子の弾丸なんかじゃない」
「じゃあ、なんなんですか?」
「勿論、実弾に決まっているじゃないか!」
「実弾!?」
「そう、ふるさと納税こそは、自治体同士の『仁義無き戦い』なんだよ!」
「仁義無き戦い!?」
「まずは、制度の仕組みから説明するよ~。ふるさと納税をすると、寄付先の自治体から納税証明書というものが送られてくるんだけど――」
「ああ、これですよね?」

 父さんから預かってきた納税証明書を取り出してクマえもんに見せる。
 クマえもんは、納税証明書をじっと見つめ――。

「これはどうしたのかな?」
「父さんから預かってきたんです。ふるさと納税をしたら、特産品とは別に送られてきたそうです。今日、租税さんに会うって話したら、これをどうすればいいのか聞いて来るように言われたから持ってきたんですけど……」
「それで、ふるさと納税の寄附金控除を含めた確定申告はしたのかな?」
「え? 租税さんも一緒に申告会場に行ってくれたじゃないですか。あの時、ふるさと納税のことなんて一言も話してませんよ」
「……ねぇ、そこの君」
「何ですか?」

「ぶち殺すぞ、ゴミめら!」
「!?」

「申告しなければゴミ……! 申告しなければ! 申告しなければ! 申告しなければ! そう……、ふるさと納税の恩恵を受けるためには、確定申告が必要……! それにもかかわらず、ふるさと納税をするだけして、納税証明書を大事に取っておき……、それで税の控除が行われたと思い込む人間……。後を絶たない……」
「クマえもん。ちょっとキャラがぶれているんじゃないかな? バイト代減額(ボソッ)」
「ふるさと納税を控除に使うためには申告が必要なんだ」

 職員さんの的確なツッコミにより、クマえもんは即座にもとの口調を取り戻した。
 というか、元のほうも色々と大丈夫なのか?

「ふるさと納税っていうのはね、平成21年度に始まった制度なんだ。元々は、ふるさとで育ったけれど都会で就職をした人が、ふるさとに貢献する手段として作られたものなんだ」
「もう少し分かりやすく!」
「そうだね。例えば、この月熊町で育ったA君が東京で就職して、東京に住むようになったとするよ。月熊町は、これまでその人のためにたくさんの税金を使ってきたんだ。小中学校の授業料や医療費の補助、その他にも数え切れないほどにね。でも、月熊町が税金を使って補助をしてきた子が東京に住むようになったら、その子はどこに税金を納めることになると思う?」
「そうか。東京に住んでいれば、東京に税金を納めることになりますね」
「そうだね。月熊町が税金を使ってきたのに、大人になったその子が税金を納めるのは東京ということになるんだ。まるで、大事に育ててきた娘をどこぞの馬の骨とも知れない男に取られた父親のような心境だよ」
「その例えはよく分からないけど、何だか不公平な感じはします」
「そうだよね。だから、東京に出たその子がこの月熊町に寄付をすることで、月熊町に対して恩返しを出来るようにしようという趣旨でこのふるさと納税という制度は作られたんだよ」
「でも、恩返しをしたくてもお金に余裕が無いんじゃないですか?」
「いいところに気がついたね。このふるさと納税制度で重要なのはね、寄付した金額を控除として使えるっていうことなんだよ」
「扶養控除とか、障害者控除とかと同じやつですか?」
「大枠は同じだよ。でも、ただの控除じゃないんだ。例えば、君が持っている10,000円分の受領証。これを確定申告で使えば、所得税と住民税が、合わせて8,000円安くなるんだよ」
「8,000円も?」
「そう。だから、実質的に君のお父さんが負担するのは、2,000円ということになるんだ。さっきの例でいくと、月熊町に10,000円を寄付しても、東京で納める税金は8,000円安くなる。だから、自分の負担は2,000円のままで月熊町に貢献することができるんだ」
「そうなんですか」
「でも、最近その制度の問題点が指摘され始めているんだ」
「問題点?」
「さっきの続きになるんだけど、A君は自分の負担を2,000円に抑えながら、大熊町に10,000円の寄付をした。だったら、その差額の8,000円はどこが損をしているのかな?」
「それは、東京の自治体ですよね?」
「そうだね。所得税分については国だけど、ふるさと納税によって安くなる税金の大半は地方税である住民税だから、本来その税金を受け取るはずだった東京の自治体が損をすることになる。東京の自治体にしてみれば、よその自治体にふるさと納税なんてしてほしくないんだ」
「でも、それは仕方が無いんじゃないですか? ふるさとに貢献したいっていう気持ちがあるんだから、少しくらい東京には涙を呑んでもらっちゃいましょうよ」
「そうだね。でも、ふるさと納税をする人の目的が『お礼の品』だとしたらどうかな? ふるさと納税をしてくれた人に対して『お礼の品』を送る自治体が沢山あるのは知っているよね?」
「はい」
「だったら、納税者はふるさとでも何でもない、縁もゆかりもない見知らぬ自治体に対してふるさと納税を行うことになると思わないかい? 実質2,000円で、限度額まで好きな特産品が手に入るんだ。でも、そうなると特産品を用意できない自治体の収入が減ってしまうよね?」
「そうですね」
「自治体にしてみれば、たとえ5,000円の出費になったとしても、10,000円の納税があれば黒字。だから、自治体は豪華な特産品を用意して、自分にふるさと納税をしてもらおうとする。最早、ふるさとを応援するという当初の趣旨は無視され、今や自治体による寄付金の奪い合いとなってしまったんだ。こうなってしまっては、もうふるさとなんて関係ない。豪華な贈答品を用意した自治体が得をし、それが出来なかった自治体が損をするだけだ。これがふるさと納税という制度の健全なあり方だといえるかい?」
「それは……」

 言えないだろう。

「実際、総務省も節度を守った返礼を行うように注意をだしているんだ。高額所得者をねらって、百万円を超えるような価値のあるものをお礼の品として用意していた自治体もあったからね」
「ところで、租税さん――じゃなかった、クマえもんは月熊町にふるさと納税をするんですか?」
「ぼく? するわけ無いでしょ? 特産品もしょぼいし、するならもっと別のところにするね。とりあえずは、ふるさと納税をまとめたサイトのランキングの上から順にやっていけば間違いないと思――」
「クマえもん。ちょっと、裏に行こうか」
「え、いや、その……」

 クマえもんは、月熊町職員によってスタッフ用待機テントに連れて行かれた。
 十分後……。

「ふるさと納税は是非この月熊町にどうぞ。派手ではないけれど、心温まる特産品をお礼の品として用意しているよ。みんなの寄付を待ってるよ~」

 テントから出てきたクマえもんは、延々と同じセリフを繰り返していた。
 裏で何があったのか、それをぼく達は知る由もない。

          2

「はちみつください」

 翌日、租税さんのぼくへの第一声はこれだった。

「あ、違った。私は租税のうふ。クマえもんじゃないわ。私はクマえもんじゃない」
「どうしたんですか? 熊退治に備えて回復薬グレートでも作るんですか?」
「気にしないで。後遺症のようなものよ」

 あの後、租税さんの身に一体何があったのだろうか。

「ところで租税さん」
「何だい?」
「最近、新聞でワンストップ特例制度とかいうのがあるって言うのを読んだんですけど、これで申告は必要なくなったんじゃないんですか?」

 【ワンストップ特例制度】
  確定申告の不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、確定申告を行わなくてもふるさと
  納税の寄附金控除を受けられる仕組み

「そうね。ふるさと納税をするときに、ワンストップ制度を利用するという意思表明を書面でしておけば申告はしなくてもよくなるわ」
「それじゃあ、確定申告がよく分からなくてもふるさと納税は出来るってことなんですね?」
「基本的にはその通りよ。納税者にとって便利な制度ではあるわ。それと、この制度の利点はもう一つあるのよ」
「もう一つ……。どんなメリットなんですか?」
「税務署が楽できるのよ!」
「……はい?」
「税務署が楽できるのよ!」
「いや、二度言わなくても分かりますから」
「これは重要なことなのよ。ふるさと納税が活発に行われるようになれば、その控除を受けるために確定申告の数も増える。難しい話は省くけれど、税務署は提出された確定申告書を全て処理することになるのだから、事務量が倍増すること間違いなし。税務署員が過労死しかねない。でも、ワンストップ制度が始まったらどうなると思う?」
「ふるさと納税をすれば確定申告をするまでも無く控除を受けることが出来るということになるから、その分の確定申告書の提出がなくなる。だから、その分の事務量の増加を抑えることが出来る?」
「正解! ま、その分各自治体の職員が苦労するんだけどね」

 租税さんは遠い目で言った。
 昨日一緒に仕事をしていた職員さんのことでも思い出しているのだろう。

「でも、職員の負担以外に問題が無いわけじゃないわ。確かに、ワンストップ制度を使えば確定申告をすることなく寄附金控除を受けることが出来るわ。でも、そこには大きな落とし穴があるのよ」
「落とし穴?」
「それは、確定申告そのものよ」
「……どういうことですか?」
「ワンストップ制度を使って寄附金控除を受けようとしていた人がいたとして、その人が医療費控除も受けようとしたらどうなると思う? ちなみに、医療費控除を受けるためにはどうしても確定申告が必要になるわ」
「そりゃあ、確定申告をすることになるんじゃないですか?」
「その通りよ。では、その人が医療費控除を受けるための確定申告をしたとしましょう。ここで問題です。この人が寄附金控除を受けるためには、確定申告で寄附金控除についても申告しておく必要があるか否か。十秒以内でお答えください!」
「そりゃあ、ワンストップなんだから確定申告は必要ないと思いますけど」
「ファイナルアンサー?」
「随分懐かしい単語が出てきた!」
「残念!」
「しかもスピーディー!?」
「それは大きな間違いなのよ! いい? ワンストップ制度は確定申告をする人には適用されないの! つまり、確定申告をする人は、そのときに寄附金控除も含めた確定申告をする必要があるのよ!」
「そうなんですか!?」
「そこを理解せずに医療費控除の申告をしたら、かえって損をすることになりかねない。ふるさと納税をした人が確定申告をする場合は、必ずふるさと納税分の寄附金控除の申告も一緒にしなければならないのよ。それを忘れたら大損することになるわ」

 それじゃあ、父さんはまだ損をしていたのか。

「あの、租税さん……」
「皆まで言うな。言いたいことは分かっているわ。一度提出した確定申告書に修正箇所があって、本来ならもっと税額が安くなるという場合に更生の請求というのができるの。今度、ふるさと納税の納税証明書を持って税務署に行ってみるといいわ」
「分かりました」

 ぼくは『更生の請求』という単語をメモし、納税証明書と一緒の封筒に入れた。
 これで何とかなってくれるといいんだけど。

「ちなみに、イズミ君のお父様ってどこの自治体にふるさと納税をしていたの?」
「お祭りのときに見せたはずですけど」
「ぬいぐるみの中にいたからよく見えなかった――何でもないわ」
「そうですか。実はこれなんですけど」

 ぼくは再度、租税さんに寄付金の証明書を見せる。

「ふむふむ、大洗町に50,000円。大洗町? ああ、うん。色々と分かりました」

 【大洗町】
  2012年に放映されたTVアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台となった町。
  平成27年にふるさと納税の謝礼品に「ガールズ&パンツァー」のグッズを追加したところ、
  平成26年度には7,631,000円だったふるさと納税額が、平成27年度には202,645,779円
  まで膨れ上がった。

「何かわかったんですか?」
「イズミ君が気にする必要がないことよ。それよりも、これからの話をしましょう」
「これから、ですか?」
「今年の分よ。自治体によっては、ふるさと納税を受け付ける期間が決まっていたりするから、早めに準備をするに越したことは無いわ」
「準備って、何をするんですか? ただ寄付して申告すればいいんじゃないですか?」
「甘いわね! はちみつよりも甘いわ!」

 租税さんは待ってましたとばかりに声を張り上げる。

「重要なのは、限度額を知ることなのよ!」
「限度額?」
「ふるさと納税は、実質2,000円で色々な特産品を手に入れるチャンスだということは分かってもらえたわね? でも、調子に乗ってふるさと納税をしすぎると、実質的な負担が2,000円ではすまなくなってしまうこともあるの。だから、ふるさと納税をする人は、自分がいくらまで実質2,000円負担のままふるさと納税をすることができるのかを把握しておいたほうがいいのよ」
「そうだったんだ……。でも、それってどうやって把握するんですか?」
「自分で計算するのは大変だから、その辺のサイトにあるシミュレーターをつかうといいわ。これに、平成29年中のイズミ君のお父さんの収入額とか控除とかを入力すると、実質2,000円でいくらまでふるさと納税をすることが出来るかが割り出せるのよ。ちなみに、29年中の収入額はまだ全然はっきりしないでしょうけれど、大きな変動が無いと思うなら28年分と同じ金額を入れてみればいいわ」

 ぼくはスマホを操作して、シミュレーターを探してみた。
 検索すると、たくさんのシミュレーターが出てきた。

「たくさんあるけど、一番信用できるのは総務省のサイトにあるやつですかね?」
「ああ、それは参考程度にしかなわないわ」
「ええっ!?」
「だって、総務省のシミュレーターって扶養控除と社会保険料控除くらいしか考慮に入れてくれないんだもの。もっと他の控除があった場合、実質的な負担が2,000円を超えてしまう可能性があるわ。私としては、『ふるさとチョイス』や『さとふる』で詳細なシミュレーターがあるから、それを使ってみるといいと思うわ。こういうホームページは各自治体と提携していて、そのホームページから直接ふるさと納税を申し込んだり、決済したりできるから便利よ」

 租税さんは得意げだった。

「さて、シミュレーターを使って、いくらまで自分が寄付をすべきなのかを把握したら、その金額の分配の仕方を考えることになるわ」
「分配?」
「例えば、10,000円分のふるさと納税で景品をくれる自治体にそれ以上の寄付をする必要はないでしょ? だから、50,000円が限度額の人は、10,000円のふるさと納税を五箇所にしたりできるのよ。どこにふるさと納税するのかは、イズミ君の家族が決めればいい。ふるさと納税の本来の趣旨には反するかもしれないけれど、最早この使い方が一般的なものになってしまっているのだから仕方がないわ。どこに行っても第二のふるさととか言っちゃう落語家だっているんだし、平気よ」
「ああ」
「チャーザー村ってどこにあるのかしら?」
「知りませんよ! 租税さんって、落語が好きなんですか?」
「笑点が好きなの。さて、横道にそれたお話を元に戻しましょう。これまで、ワンストップ特例制度について話をしてきたけれど、これにも落とし穴があるのよ」
「またか……」
「ワンストップ特例制度を使うためには『特例使用申請書』を寄付先の自治体に送らなければならないのよ。でも、その申請書を送ってきてくれるかどうかは自治体によって対応がまちまちだから、漏れが出てくる可能性があるわ。それに、ふるさと納税をする自治体を五箇所以内に絞っておく必要があるのよ! 五箇所を越えた場合、ワンストップ特例制度は無効化されるわ」
「な、何故……」
「知らないわ! でも、ワンストップ制度を利用した場合は、翌年度の住民税の通知書が届いた時に、ちゃんとふるさと納税分の金額が安くなっているか確認したほうがいいと思うわ。そこまですれば安心よ」

 そうでなければ安心は出来ないのか。
 税金の世界、何だか落とし穴だらけのような気がする。

「ところで、イズミ君」
「はい、何でしょう?」
「そろそろ本題に入りましょう」
「え、今までのが本題だったんじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょう? 昨日、イズミ君に頼んでおいたお買い物。ちゃんと持ってきておいてくれた?」
「はい。奥の一番上においてあるダンボールがそれですよ」
「もう運び込んであったの?」
「そりゃあ、そんな大量の本を教室に置いといても邪魔になるでしょうから、朝のうちに運び込んで置いたんです。まだ全部じゃありませんから、何回かに分けて持ってきますよ」
「うん……」

 租税さんはすでに本の中の世界に入り込んでいた。
 ぼくの言葉に対する反応は、空返事に近い。

「ところで、クマえもん」
「何だい? ……って、何を言わせるの?」
「いえ、更生の請求とかいうやつなんですけど、父はあの通りですし、多分今度もぼくが代わりに税務署に行くことになると思うんです。だから、出来れば一緒に来てもらえないかと」
「別にいいわよ。ただ、一つだけ言っておきたいんだけど――」

 租税さんは明るい笑顔とともに、ぼくに要求をした。

「私のカバンにはまだ若干の余裕がございます」


《補足》

租 税「そういうわけで、補足コーナーよ」
イズミ「今回は何を補足するんですか?」
租 税「ほら、今回ふるさと納税について色々と悪く言っちゃったじゃない。でも、実際のところ、悪い制度じゃないと思うのよこれ。例えお礼の品が目当てだったとしても、それにはお礼の品を探すという作業が必要になるわ。最初にイズミ君も言っていたけれど、各地の特産品をアピールするというのも重要な目的の一つなのよ」
イズミ「確かに、ブルジョワさんならともかく、一般庶民が気軽に高級牛肉や海鮮物を購入したりはしないでしょうから、そういう機会でもなければ気にも留めないでしょうね。月熊町のはちみつなんか今まで町外の人に見向きもされていなかったでしょうし、そもそも町内でも知られていませんでしたし」
租 税「まぁ、地域の特産品なんて基本そんなものよね」
イズミ「それで地域の活性化とかが出来ればいいですね」
租 税「実際、ふるさと納税で知った商品を後日直接注文する人も沢山いるわ。そういうわけだから、むやみやたらと批判だけされるような制度ではないということだけは知っておいてほしいの。今回は以上で補足終了よ」

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